うつ病は日本人のおよそ10~15人に1人が一生のうちにかかるとも言われ、誰がいつなってもおかしくない病気です。
とはいえ、実際に身近な家族や友人がうつ病になった場合、どのように接したらよいか戸惑う方も多いのではないでしょうか?
本記事では、うつ病患者を支えるための対応や接し方のポイントについて解説します。
目次
うつ病の基本知識
まずは、うつ病の定義や種類、症状などについて理解を深めましょう。
うつ病とは?
うつ病とは、日常生活に支障が出るほどの強い気分の落ち込みや、意欲の低下などが長期間続く病気です。医学的には、うつ病は脳内の神経伝達物質の一種である「セロトニン」や「ノルアドレナリン」の分泌が減少するために起こると考えられています。
うつ病は症状の表れ方により、大きく2つに分類されます。
うつ病の種類 | 主な症状 |
大うつ病性障害(うつ病) | 一般的に「うつ病」と呼ばれるタイプです。抑うつ症状(気分の落ち込みや興味・関心の喪失、不眠など)のみが表れます。 |
双極性障害 | 抑うつ状態と躁(そう)状態の両方が交互に現れます。抑うつ状態と、非常に元気がよく「自分は何でもできる」と思い込む躁状態、2つの極端な気分の波が表れるのが特徴です。 |
うつ病の症状は、精神的な症状だけではなく、身体的な症状として表れることもあります。代表的な症状を紹介します。
症状の種類 | 主な症状 |
精神的症状 | ・抑うつ気分(悲しい、憂うつ)・興味・関心の喪失・意欲の低下・集中力や判断力の低下・自己否定感や罪悪感・自殺願望(死にたいという思考や観念) |
身体的症状 | ・睡眠障害(不眠、過眠など)・食欲の変化(減退または増加)・疲労感や気力の低下・身体の痛みや不調(頭痛、胃腸の不調など)・性欲の低下 |
これらの症状が2週間以上続き、改善されないときはうつ病が疑われます。うつ病の診断には専門医による慎重な評価が必要になります。
早期発見と適切な治療のため、疑わしい症状が続いている場合には早急に専門医に相談しましょう。
うつ病は誰でもなる可能性がある
うつ病は強いストレス状態にさらされたり、長期的なストレスが重なったりすることで発症すると言われています。
たとえば受験や就職・転職活動、仕事などで許容範囲を超えるストレスがかかることで、うつ病になるケースがあります。
また、結婚や昇進など、一見喜ばしい出来事が発症の引き金になるケースもあります。原因は人それぞれですが、うつ病は特別な病気ではなく、誰でもなる可能性がある病気といえます。
うつ病は周囲の理解とサポートが大切
うつ病は本人の意思だけで改善することは難しく、長期的な治療や周囲の理解・サポートが重要です。
うつ病患者は孤独感や焦燥感を抱えやすくなります。適切な治療とともに家族や友人からの温かい支援を受けられることは、患者にとって回復への大きな励みとなります。
また、理解が得られず心無い言葉をかけられることで、ますます落ち込み悪化する恐れがあります。このような事からも周囲の理解は不可欠です。
うつ病患者の家族や友人ができる事
普段から関わっている家族や友人だからこそ気付けること、できることがあります。
「いつもと違う」「もしかしてうつ病?」と気付いた時、身近な人のサポートは患者の早期発見・治療の大きな後押しになります。
いつもと違う様子に気付く
うつ病の早期発見には、身近な人の気づきが重要です。もし長期間、気分の落ち込みや意欲低下などが続いているなど、心のサインが出ているときは要注意です。
他にも普段と異なる状態、たとえば食欲低下、不眠、集中力低下などの症状がないか確認しましょう。
また、一見うつ病とは結びつかない身体のサインとして、頭痛や胃腸の不調などを訴えることもあります。これらの異変に気づいたら、まずは本人に寄り添い、話に耳を傾けてみましょう。
専門家の助けを借りることを促す
うつ病は自力での治癒は難しく、専門家による適切な治療が必要です。しかし、本人がうつ状態であることを認識できていなかったり、「恥ずかしい」「怖い」と受診を躊躇したりすることも少なくありません。
本人だけでは受診が難しい場合、家族や友人による受診のサポートが重要になります。本人の性格や状態に配慮しながら「信頼できる先生がいるから、一緒に相談に行こう」「念のため、一度調べてみるのはどう?」など、不安に寄り添いながら受診に繋がるよう促しましょう。
適切に心療内科や心理カウンセラーの力を借りることで、患者の回復へと繋がっていきます。
気にかけて温かく見守る
うつ病患者への接し方で大切なのは、温かく見守り続けることです。
患者によっては長時間労働・職場等でのハラスメント、子どもであれば学校でのいじめ等がうつ病の要因となっている可能性もあります。
無理な決断は危険ですが、「もし辞めるという選択肢をしても大丈夫」「(今の環境を辞めたとしても)あなたを気にかけている人はいるよ」という姿勢やメッセージを伝えることは患者の安心感につながります。
気にかけて寄り添ってくれる存在がいることは、患者にとって大きな支えになります。本人のペースを尊重しつつ、焦らず見守り続けましょう。
【サポートするポイント】うつ病の方への接し方
うつ病患者への接し方や、サポートするポイントについて解説します。
病気を正しく理解し受け入れる
うつ病は「気の持ちよう」などではなく、治療が必要な精神疾患です。
患者を支えるうえで大切なことは、病気を正しく理解しようとする気持ちを持つことです。うつ病は本人の意思だけで克服できるものではありません。回復には周囲の理解や受け入れが必要です。
家族や友人など、うつ病患者の周りの人がうつ病について学び、病気の特徴や治療法を理解することで、患者の安心感や早期回復につながります。
療養のサポートをする
治療には薬物療法や心理療法などが含まれますが、これらの治療を継続するためには、家族の協力が大きな役割を果たします。
特に、薬の服用を忘れないようにサポートすることが重要です。薬の効果や副作用について可能な限り理解し、必要に応じて主治医に相談しましょう。
患者によっては、定期受診の付き添いも必要になる場合があります。医師からの話を一緒に聞き、患者の状態に応じて医師への説明を行うなど、適切な治療が受けられるようサポートしましょう。
治療でも日常生活でも、気にかけていることを伝えながら、孤独感や孤立感を感じさせないようにすることが大切です。
安心できるような接し方をする
うつ病患者には、安心感を与える接し方が効果的です。患者の考えや想いを理解しようとする姿勢を示すことで、信頼関係の構築に繋がります。
患者が話をする際には、できるだけさえぎらずに傾聴し、最後まで聞くことを心掛けましょう。「大丈夫だよ」「あなたを大切に思っているよ」といった気持ちを伝えることで、患者は安心感を得られます。自分を肯定・受容してくれる言葉を受けとることは、患者にとって自信や自己肯定感の回復にも繋がります。
また、うつ病の回復には長い時間がかかることが多く、焦らずに支えることが求められます。日常生活においては、患者が安心して過ごせる環境を整えることが重要です。
「死にたい」のサインを見逃さない
「自殺予防の10か条」というものがあります。これは自殺の危険が迫る可能性について解説したもので、自殺の危険因子をわかりやすく説明した10か条です。
自殺予防の10か条(危険因子)
- うつ病の症状に気をつける
- 原因不明の身体の不調が長引く
- 飲酒量が増す
- 安全や健康が保てない
- 仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う
- 職場や家庭でサポートが得られない
- 本人にとって価値あるものを失う
- 重症の身体の病気にかかる
- 自殺を口にする
- 自殺未遂に及ぶ
・参照元:ご家族にできること|厚生労働省 こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
できるだけ手前の段階からサポートし、患者の言動や行動の変化に注意し「死にたい」というサインを見逃さないことが重要です。
もし患者が「死にたい」と口にする、実際に自殺未遂に及ぶなど、重症・緊急度が高いと感じた場合、家族や友人だけで抱え込まず専門家に助けを求めましょう。
【注意点・やってはいけない事】うつ病の方への接し方
うつ病患者への接し方で、やってはいけないことや注意点を解説します。接し方によっては患者を焦らせてしまったり、ますます追い詰めてしまったりする可能性があります。病気を理解し、患者を支える関わりを心がけましょう。
責めない
うつ病患者に対して、病気の原因を追及したり、責めたりすることは絶対に避けましょう。「なぜうつ病になったのか」と問いただすことは、患者をさらに追い詰めることになりかねません。
たとえば過労が原因だと思われる場合でも、「あれほど言ったのに」といった言葉を投げかけることは、患者の自責の念を強め、回復を遅らせる可能性があります。
代わりに患者の気持ちに寄り添い、理解を示す姿勢が重要です。「つらい思いをしているんだね」「あなたの気持ちを理解したい」といった共感的な言葉かけが効果的です。
𠮟咤激励をしない
うつ病患者に「頑張れ」といった励ましの言葉をかけることは、逆効果になる可能性が高いです。うつ病になる人の多くは真面目で責任感が強い傾向があり、すでに限界まで頑張り続けた結果、心が折れてしまった状態にあります。
そのような状況でのさらなる励ましは、患者にとって大きな心理的負担となり、症状を悪化させる可能性があります。
「無理をしなくていいよ」「ゆっくり休んでいいんだよ」といった言葉で、患者が安心して休養できるような声かけを心がけましょう。
無理な事はさせない
患者の意思に反して学校や職場に行かせようとしたり、気分転換と称して無理に外出を促したりすることは避けましょう。うつ病患者にとっては、日常的な活動も大きな負担となる場合があります。
本人のペースや希望を尊重し、無理のない範囲でサポートしましょう。
例えば、「散歩に行きたい時は声をかけてね」など、患者の意思を尊重しながら必要に応じてサポートする姿勢を示すことで、うつ病患者は安心します。
大きな決断はさせない
うつ病の症状が強い時期には、判断力や思考力が低下していることが多いため、転職や退職などの重要な決断は先送りにすることが望ましいです。うつ状態にあると物事を悲観的に捉えがちで、正常な判断が困難になることがあります。
このような時期には、「今は療養に専念しよう」「焦らなくていいよ」といった言葉をかけ、大きな決断を急がせないようにすることが大切です。患者の回復を最優先し、寄り添いながら見守る姿勢を保ちましょう。
人と比較しない
うつ病患者を他の人と比較することは避けましょう。
もし「みんな頑張っているのに」「あなただけがつらいわけじゃない」といった言葉をかけてしまうと、患者の自尊心を傷つけ、自己否定感を強めてしまう可能性があります。
周りと比較せず、「あなたなりのペースでいいんだよ」「一緒に乗り越えていこう」といった言葉で、うつ病患者の存在価値を受容・肯定する姿勢で関わりましょう。
説教や説得をしない
うつ病患者に対して説教や説得をすることは、効果がないばかりか逆効果になる可能性があります。患者の気持ちを否定せず、傾聴し、共感的な態度で接することが、うつ病患者とのコミュニケーションの基本となります。焦らず、ゆっくりと患者のペースに合わせて接することを心がけましょう。
もし患者が「死にたい」といった発言をしても、「命を粗末にしてはだめ」などと叱責するのは危険です。代わりに「あなたがいなくなったらとても悲しい」など、大切に想っていることを伝えましょう。
ただし、「死にたい」という発言は、自殺につながる危険なサインです。このような場合は一人で抱え込まず、主治医や専門家に相談しましょう。
うつ病患者の家族は専門家の助けを借りることも必要
うつ病患者本人はもちろん、患者の家族も専門家の助けを借りることが重要です。
家族が患者に適切なサポートを提供し、また支援していく中で心を病んでしまわないよう、専門家の支援やアドバイスを受けましょう。
うつ病患者への接し方を主治医に相談する
ときには家族から直接医師に連絡し、患者抜きで話す時間を作ってもらい、接し方について相談するのも良いでしょう。例えばどのような声かけが適切か、逆に避けたほうがいいのかなど、専門的な視点からの助言を得ることができます。
うつ病の専門家である医師から具体的なアドバイスを聞くことで、患者のよりよいサポートにつながります。
(ただし、クリニックや医師の方針によって対応可能かどうかは異なります)
接し方や治療について情報交換ができるコミュニティに参加する
うつ病患者の家族を支えるために、自治体・公共機関やクリニック・任意団体・カウンセラーなどが主催する、家族をサポートする会、励まし合う家族会などのコミュニティがあります。お住まいの近くにあるか調べてみましょう。
これらのコミュニティでは同じ悩みを持つ人同士で情報交換ができ、お互いに支え合える環境があります。患者本人だけでなく、家族も孤立せず適切なサポートを受けられる環境を整えることが大切です。
大切な人がうつ病になって接し方に悩んでしまったら
うつ病患者をサポートする家族も、同じ悩みを持つ人々と励まし合い、相談し合う環境が大切です。家族が孤立してしまうと、精神的な負担が増えて共倒れになる可能性があるため、家族自身もサポートを受けることをおすすめします。
家族会やサポートグループに参加することで、同じ境遇の人達と経験や知識を共有し、適切な対処法を学ぶことができます。
また、専門家からのアドバイスを受けることで、より効果的なサポートが可能になります。家族が健康でいることが、患者の回復を支えるための基盤になります。
同じ症状や悩み抱える患者と家族を支えるコミュニティとして、おうち病院疾患コミュニティ「クリラ」うつ病コミュニティがあります。
登録料無料で、専門家の意見やアドバイスも受けられます。うつ病患者との接し方に悩んでいる方は参加を検討してみてはいかがでしょうか。
ひとりで悩まないで、同じ境遇の人と相談し合う環境が大切
家族や大切な人がうつ病になったとき、その接し方に悩む人は少なくありません。
ここでもし身近に相談できる人がいないと、共倒れになるリスクが高まります。だからこそ一人で悩まず、同じ悩みを持つ人々と励まし合い、相談し合う環境を整えることは大切です。サポートグループやコミュニティを活用しましょう。
同じ悩みを持つ方々と経験や知識を共有し、専門家からのアドバイスを受けることで、患者への適切なサポートを学ぶことはもちろん、家族自身の健康を保つことにつながります。
うつ病患者との接し方に悩んでいる方は、まずはおうち病院うつ病コミュニティで相談してみましょう。