高血圧の治療薬は全部で6種類あります。症状や体質、年齢などさまざまな状況を加味して医師の判断のもとで処方する薬を決定します。患者としても、治療薬について基礎知識を習得しておくと安心できるでしょう。
本記事では、高血圧の治療薬の種類や効果、使い分け、副作用、注意点などについて詳しく解説します。
目次
高血圧の治療法
医療機関の診察室で測定した血圧が最高血圧140mmHg以上、あるいは最低血圧が90mmHg以上の場合は高血圧と診断されます。高血圧と診断されたら、以下の治療法を組み合わせて血圧をコントロールする必要があります。
・食事療法
・運動療法
・薬物療法
高血圧の治療法について詳しく見ていきましょう。
食事療法
塩分を多く摂取すると体内の水分量が増えることで心臓から押し出される血液が増加し、血圧が上昇する可能性があります。したがって、高血圧の治療において塩分の摂取制限は必須です。
1日の塩分摂取量の目安は6g未満です。食品の成分表示に記載されているナトリウムの量を参考に、塩分摂取量を調整しましょう。また、野菜や果物、海藻などに含まれるカリウムには、血圧の降下作用があります。
15歳以上で1日3,500mg以上のカリウムを摂ることを目標に、日々の食事メニューを選ぶことが大切です。高血圧治療において理想的な献立については、医師に相談するとよいでしょう。
運動療法
適度な運動には、血圧を下げる効果が期待できます。また、高血圧の悪化を招く肥満の解消にもつながるでしょう。目安として、運動中に会話ができる程度の強度で歩行やジョギング、自転車の運転、水泳などを週3~4回、1回30~50分程度行うことが大切です。
ただし、心臓や腎臓に病気がある方は運動が制限される場合があるため、事前に医師に相談しましょう。また、一時的に運動をしただけでは、高血圧は改善しません。適度な運動を継続することで効果が期待できます。
ただし、運動を続けなければならないと強く感じるとストレスが大きくなり、血圧が上がりやすくなる可能性があります。無理なく続けられる運動について医師に相談し、自身に合った運動習慣を身につけましょう。
薬物療法
高血圧の治療には、血圧を下げる作用がある降圧薬を使用します。降圧薬には6種類あり、患者に合ったものを使用する必要があります。
まずは1種類の降圧薬を使用し、必要に応じて他の降圧薬と組み合わせます。また、最初に使用した降圧薬に効果がない場合は、使用を中止して他の降圧薬を使用します。ただし、最初から2種類の降圧薬を使用する場合もあるなど、患者によって治療方針が大きく異なることに留意が必要です。
高血圧の薬物療法を開始する条件
血圧が140/90mmHg以上の場合に高血圧の治療薬を使用します。医師は、次の要素を踏まえて使用する治療薬を決めます。
・年齢、性別、人種
・高血圧の重症度
・糖尿病や脂質異常症などの有無
・副作用
実際に診断を受けなければ薬物療法を行うかどうかはわからないため、血圧が気になる方はまずは医師に相談しましょう。
高血圧の治療薬
高血圧の治療薬は、以下の6種類です。
薬の種類 | 効果 |
カルシウム拮抗薬 | 血管を広げて血液の流れをスムーズにして血圧を下げる |
アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB) | 血管を収縮させるアンギオテンシンⅡの作用を抑えることで血圧を下げる |
アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害) | アンギオテンシン変換酵素の働きを阻害することで、アンギオテンシンⅠからアンギオテンシンⅡへの変換を抑えて血圧を下げる |
利尿剤 | 水分の排泄を促すことで血液中の水分量を減少させ、血圧を下げる |
β遮断薬 | 心臓のβ受容体に作用し、心臓の拍動数を抑制することで血圧を下げる |
α遮断薬 | 血管の収縮を抑えることで血圧を下げる |
これらのいずれかの治療薬を処方してほしい方は、まずは医師にご相談ください。
それぞれの薬が血圧を下げるメカニズムについて詳しく見ていきましょう。
カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬は、血管を広げて血液の流れをスムーズにし、血圧を下げる薬です。カルシウムが持つ血管を構成する筋肉を収縮させる作用を抑えることで、血管を広げます。
具体的には、血管の平滑筋細胞の中にあるカルシウムチャネルを阻害し、カルシウムイオンの流入を抑制します。
特に心臓の血管である冠動脈に作用し、心臓への血液の供給量が増加します。心臓への血液の流れが増えると酸素と栄養の供給が改善し、心筋の酸素不足による狭心症の発作を予防する効果が期待できます。
アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)
アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)は、血管を収縮させるアンギオテンシンⅡという物質の作用を抑えることで血圧を下げる薬です。アンギオテンシンⅡを取り込む受容体をブロックすることでその作用を抑制します。
アンギオテンシンⅡは、血管収縮やアルドステロンというホルモンの分泌を促進することで血圧を上昇させる物質です。ARBは、アンギオテンシンⅡと受容体の結合を阻害することで、アンギオテンシンⅡによる血管収縮やアルドステロンの分泌を抑制します。
アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)
アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は、アンギオテンシン変換酵素という酵素の働きを阻害することで、アンギオテンシンⅠからアンギオテンシンⅡへの変換を抑えることで血圧を下げる薬です。アンギオテンシンⅡには血管を収縮させる作用があるため、これを抑えることで血圧が下がります。
また、ACE阻害薬にはアンギオテンシンⅡ以外の物質の代謝や分解も抑制する作用があり、これによって血管内皮機能の改善や心機能の保護などの効果も期待できます。
ACE阻害薬は高血圧の治療によく使用されるほか、心不全や糖尿病性腎症などの治療にも使用されることがあります。
利尿剤
利尿剤は、水分の排泄を促すことで血液中の水分量を減少させ、血圧を下げる薬です。また、むくみや浮腫も改善することがあります。
サイアザイド系利尿薬は、遠位尿細管で作用する利尿薬の一種で、高血圧や浮腫を引き起こす疾患の治療に使用します。以前は頻繁には使用されていませんでしたが、大規模な臨床試験によって他の降圧薬との併用による効果の増強が示されたことから、最近では高血圧治療において重要な薬剤となっています。
例えば、アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)やカルシウム拮抗薬と併用すると、効果の増強が期待できます。
心臓の働きを抑える薬(β遮断薬)
β遮断薬(βブロッカー)は、心臓のβ受容体に作用し、心臓の拍動数を抑制することで血圧を下げる薬です。心拍数が抑制されることで心臓の負担が軽減され、血圧が下がります。
高血圧、頻脈性不整脈、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)、心不全などに使用されます。これらの症状は、交感神経の活性化によって引き起こされることがあり、β遮断薬が交感神経のβ1受容体をブロックすることにより、心臓の症状を改善します。
血管の収縮を抑える薬(α遮断薬)
α遮断薬は、血管の収縮を抑えることで血圧を下げる薬です。交感神経がα1受容体を刺激すると血管が収縮することで血圧が上昇します。α遮断薬を服用すると、このα1受容体をブロックすることで血管の収縮を抑えられ、結果的に血圧が下がります。
また、α1受容体は前立腺や尿道などにも存在し、薬剤によってはこれらの受容体を阻害することで尿道を広げ、排尿をスムーズにする効果が期待できる場合もあります。
高血圧の治療を受けないとどうなる?
高血圧を放置すると、さまざまな合併症や重篤な病気が引き起こされる可能性があります。
・動脈硬化(アテローム性動脈硬化症)
・心血管疾患
・脳血管障害
・腎臓障害
・眼障害
動脈硬化が進行すると血栓ができやすくなります。血栓が心臓の血管に移動して詰まらせると心筋梗塞を、脳血管を詰まらせると脳梗塞が生じます。これらの病気は命を落とす危険性があるうえに、一命を取り留めたとしても脳に機能障害が残る危険性があります。
高血圧は症状が現れにくいため、重大な病気と認識できない方も多いでしょう。定期検診で血圧コントロールができているかどうかチェックし、もし高血圧と診断された場合は速やかに治療を受けることが大切です。
高血圧の薬の使い分け
高血圧の薬には、最初に使用すべきとされる第一選択薬と、必要に応じて使用する薬があります。高血圧の薬の使い分けについて詳しく見ていきましょう。
最初に使用すべき薬
高血圧の治療を初めて開始する際は、下記の4種類の薬が第一選択薬とされています。
・カルシウム拮抗薬
・アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)
・アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)
・利尿剤
日本では、カルシウム拮抗薬かアンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)を使用し、血圧が十分に下がらない場合に利尿薬を使用する方法が一般的です。
なお、心不全や狭心症のある方や心筋梗塞が起きたことがある方については、β遮断薬を最初に使用することが検討されます。第一選択薬については、副作用や禁忌なども踏まえて決定するため、必ずしもこれらの薬が選ばれるとは限りません。
病状によっては使用が推奨される薬
病状によっては使用が推奨される薬は、下記の3種類です。
・アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)
・アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)
・カルシウム拮抗薬
蛋白尿がある場合は、アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)やアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)、狭心症がある場合はカルシウム拮抗薬など、合併症の種類によっては使用が推奨される薬があります。
医師の判断や病状、合併症の重症度などさまざまな要素を踏まえて決定します。また、使用する薬の組み合わせ方、服用量についても個々に合わせて決められます。
高血圧の薬を飲むことができないケース
アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)とアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)は、妊娠中に使用すると胎児に悪影響が及ぶ可能性があります。そのため、妊娠の可能性がある方、妊娠している方は、医師の指示のもとで使用を中止することが基本です。
また、β遮断薬も喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの気管支疾患がある方は服用できません。これは、β遮断薬に気管支を収縮させる作用があるためです。普段から咳が出ている、たまにひどい咳が出るといった場合も、その旨を医師に伝えておいた方がよいでしょう。これらの他にも、禁忌とされているケースがあります。
使用できる薬を判断するために持病や妊娠の有無、服用している薬などについて質問されるので、正確に回答してください。
高血圧の薬の副作用
高血圧の薬の主な副作用は、めまいやふらつきなどです。これは、血圧が急激に低下することで脳に十分に血液が行き渡らなくなることで生じます。また、座った状態から急に立ち上がると脳に十分に血液が行き渡らなくなることで、めまいやふらつきが起きることがあります。
高血圧の薬物療法を受けている方は、このような起立性のめまいやふらつきが現れやすいため、特に注意が必要です。ゆっくりと立ち上がったり、何かにつかまるようにしたりして、転倒を防ぎましょう。
また、強い副作用が現れた場合は薬が合っていなかったり、服用量が多すぎたりしている可能性があるため、すぐに医師に相談してください。
しかし、病院に足を運ぶのが億劫、時間がないという方もいるのではないでしょうか。そこで検討したいのがオンライン診療です。医療機関を受診する時間はないものの、オンラインであれば隙間時間に診察を受けることができるでしょう。
高血圧の薬を服用する際の注意点
高血圧の薬を服用する際は、一緒に摂取する飲み物や食べ物、飲み忘れたときの対応に関して注意が必要です。高血圧の薬を服用する際は、次の注意点を守りましょう。
柑橘類を同じタイミングで食べない
カルシウム拮抗薬は、スウィーティー、ザボン、ダイダイ、グレープフルーツなどに含まれる成分によって薬の分解が抑えられ、血圧を下げる作用が強く現れる可能性があります。そのため、これらの柑橘類と一緒に摂取することは避けましょう。
みかん、オレンジ、レモン、カボスなどの柑橘類は一緒に摂取しても問題ありません。他に、一緒に摂取しても大丈夫かどうか気になるものがある場合は、医師や薬剤師に確認しましょう。
飲み忘れたときに適切に対応する
飲み忘れたときの対応方法を間違えると、薬の過剰摂取になる恐れがあります。服用回数に応じて飲み忘れたときの対応方法が異なることに注意しましょう。
1日1回服用タイプの薬を飲み忘れたときは、気づいたときにすぐに服用してください。ただし、次の服用までの時間が近い場合は、忘れた分を飲まずに次の服用時まで待つ必要があります。
1日2回服用タイプの薬は、朝の服用を忘れた場合は気づいたときにすぐに服用し、遅れた時間分ずらして夕方の分を服用してください。夕方の服用を忘れた場合は、寝る前までに服用しましょう。
1日3回服用タイプの薬は、薬を飲み忘れた時間から1~2時間程度であれば、その分を飲みます。それよりも遅くなって気づいたときは、次の服用分から服用してください。判断が難しいときは、かかりつけの医師や薬剤師に相談しましょう。
自己判断でやめない
途中で飲むのが面倒になったり、身体の調子がよくなったりしたときに、自己判断で薬の服用をやめてしまう方もいます。
高血圧の薬は高くなった血圧を一時的に下げるためのものであり、高血圧そのものを完治させるものではありません。そのため、服用をやめると半年程度で血圧が元に戻る恐れがあります。
また、血圧が上がったときだけ飲む方法だと、心疾患や脳卒中のリスクが高まる場合があるため、自己判断で中断・中止してはいけません。
規則正しい生活を続ける
高血圧の原因が何らかの病気ではない場合は、食事や運動、睡眠などの生活習慣を見直したり、禁煙や肥満を解消したりすることで、減薬できる可能性があります。
ただし、生活習慣の改善と高血圧の改善との関連性は、慎重に判断しなければなりません。一見、生活習慣の改善によって血圧コントロールが改善したように見えても、実際には何らかの病気によって血圧が一時的に下がっただけの場合もあります。
また、1日の塩分摂取量を6gに抑えた結果、血圧コントロールが改善したとしても、薬をやめてから喫煙を始めると再び高血圧になることもあるでしょう。減薬や中断などについては医師に相談し、指示に従うことが大切です。
他の薬を飲むときは必ず報告する
全ての薬には飲み合わせの善し悪しがあり、降圧薬も例外ではありません。薬を服用している場合に高血圧の治療を受ける際は、服用している薬の名称を医師に伝えましょう。
同じ医療機関において他の病気の治療として薬を服用している場合は、医療機関側が把握しているため、担当医に報告する必要はありません。他の医療機関で処方された薬を服用している場合は、必ず担当医にその旨を伝えてください。
病院に通うのが面倒・忙しくて通えないときは「おうち病院オンライン高血圧外来」
高血圧の薬にはさまざまな種類があり、状態によって組み合わせを変更したり中止したりします。また、強い副作用が現れたときはすぐに医師に相談が必要です。
「高血圧が気になるけれど医療機関を受診するのが面倒」、「強い副作用が現れているけれど時間がないから放置する」といった方もいますが、高血圧の悪化が懸念されるため、必ず医療機関を受診することが大切です。
高血圧の症状が現れたときはもちろん、強い副作用が出たとき、このまま治療を続けるべきなのか不安を感じたときなどにも相談できます。この機会にぜひチェックしてみてください。