認知症の人に言ってはいけない言葉とは?適切なコミュニケーションの取り方を解説

認知症の家族とのコミュニケーションに悩みを抱える方は少なくありません。気持ちが伝わらなかったり、言っていることを理解できなかったりした場合、心ない言葉をかけてしまい罪悪感に悩まされる方もいます。 適切なコミュニケーションの取り方を理解するとともに、その効果について知ることで、前向きな気持ちを持てるようになる可能性があります。 本記事では、認知症の人に言ってはいけない言葉と、適切なコミュニケーションの取り方、その効果などについて詳しく解説します。

目次

認知症の家族とのコミュニケーションに悩みを抱える方は少なくありません。気持ちが伝わらなかったり、言っていることを理解できなかったりした場合、心ない言葉をかけてしまい罪悪感に悩まされる方もいます。

適切なコミュニケーションの取り方を理解するとともに、その効果について知ることで、前向きな気持ちを持てるようになる可能性があります。

本記事では、認知症の人に言ってはいけない言葉と、適切なコミュニケーションの取り方、その効果などについて詳しく解説します。

認知症の人に言ってはいけない言葉の種類・例

認知症の人に言ってはいけない言葉はいくつもあります。普段のコミュニケーションを思い返して、誤って言ってしまっていないか確認してみましょう。

自尊心を傷つける

認知症の方とのコミュニケーションは慎重に行う必要があります。このとき注意したいのが、自尊心を傷つけないことです。

例えば、「もうお昼ご飯を食べましたか?覚えていますか?」「これを食べてみて、美味しいでしょう?」といった言葉は、相手を子ども扱いしているように感じさせる可能性があります。

また、「私がやりますから、何も心配しなくていいですよ」と言うと、相手が何もできない存在であるかのような印象を与え、自尊心と自立心を奪ってしまいます。「手伝ってあげましょうか?」といった表現も、自尊心を損なう原因となります。

孤立させる

認知症の方に対して、以前の生活や趣味が難しくなったからといって、本来の役割を無理に奪うことは避けましょう。認知症の方は適切な役割を果たすことで自己肯定感を高め、自信を持つことができます。

役割を奪われると、運動不足や脳への刺激が減少し、認知機能の低下につながる可能性があります。些細なことでも、本人ができる範囲で役割を残すことが重要です。

例えば、日常生活の中でできる家事や趣味、興味を持っている活動を続けることで、認知症の進行を遅らせることができる可能性があります。

ネガティブな気持ちにさせる

認知症の方に対して、否定的な言葉や態度を示すことは避けましょう。例えば、「それは違うよ」「それはできないでしょう」などの否定的な表現は、自尊心を傷つける原因となります。ネガティブ思考に陥り、これまでできていたこともできなくなる可能性があります。

自信を失わせる

認知症の方に対して、能力や経験を否定するような言葉を避けることが重要です。例えば、「もうそれはできないんでしょう?」や「昔はもっと頭がよかったのに」といった発言は、自信を失わせる可能性があります。

自信を失えば、「今日は〇〇をやってみよう」と伝えても「どうせ自分にはできないから」と言われてしまうかもしれません。そうなれば、本来できたはずのことができなくなる可能性もあるため、自信を失わせないよう注意が必要です。

思いやりに欠ける

認知症の方に対して、思いやりや優しさを欠いた言葉や態度は避けるよう心がけましょう。例えば、「もう覚えられないの?」や「何度も同じことを聞くんだから困るわ」といった発言は、相手を傷つける原因となります。

このような状況が続くと、自分が嫌われていると思い、ネガティブ思考に陥ることになりかねません。

緊張させる

認知症の方に対して適切でない言葉や態度で緊張感を与えないよう心がけましょう。

例えば、「何でそんなことも覚えられないの?」や「もう少し頑張ってみて」といった言葉は、相手にプレッシャーや緊張を感じさせる可能性があります。緊張すると実力を発揮できなくなるように、これまでできていたこともできなくなるかもしれません。

責める

認知症の方に対して責めるような言葉を使うことは避けましょう。例えば、「なぜそれをやらないんだ?」や「もっと頭を使ってみてよ」といった責めるような表現は、不安やストレスを与える原因となります。

認知症の人に対する言葉選びのポイント

認知症の方に対しては、適切な言葉選びを心がけましょう。次のポイントを押さえることが大切です。

否定も肯定もしない

認知症の方に対する言葉選びでは、否定的な表現や肯定的な表現を極力避けることが大切です。例えば、認知症の方に娘と間違えられた場合は、「私、娘さんに似ていますか?」と質問することで否定も肯定もしない中立的な表現ができます。

これにより、相手を傷つけずに、誤っていることを伝えられます。

また、相手が何かを間違えた場合には、「それはちょっと違うんだけど、気にしなくていいよ。みんな間違うことあるから」といった形で、優しく誤りを訂正し、同時に安心感を与えることも重要です。否定や叱責は避け、理解と共感の気持ちを大切にしましょう。

気持ちに寄り添う

認知症の人が抱く「もの盗られ妄想」や幻覚症状に対しては、理解と共感が重要です。

例えば、「お財布を盗られた」と訴えられた場合、否定せずに一緒に心配の言葉をかけ、共に探すことで、本人が大切にされていると感じ、妄想が和らぐことがあります。その際、穏やかな態度でサポートを行うことも効果的です。

幻覚に対しても、否定ではなく共感を示すことが大切です。本人が感じる不安や恐怖に対して、「それは怖いね」といった共感の言葉をかけ、同時に周囲の環境を確認して安心感を与えましょう。

一緒にすることを提案する

認知症の方とのコミュニケーションにおいて、「〇〇してあげる」ではなく、「一緒に〇〇をしませんか」といった表現が効果的です。相手を尊重していることを前面に出しています。

例えば、日常の家事や趣味について「一緒にお茶を淹れましょうか?」、「一緒に散歩に行きませんか?」など、積極的な提案を行います。これにより、本人が主体的に参加しやすくなり、関係性が深まることが期待できます。

その際は、相手の年齢や経験に配慮し、協力を仰ぐ形で関わることが重要です。

具体的に伝える

認知症の方とのコミュニケーションにおいては、抽象的な表現ではなく、具体的でわかりやすい言葉を選ぶことが重要です。細かな情報や具体的な内容を伝えることで、理解しやすくなります。

例えば、「外でお散歩しましょう」というよりも、「公園に行って、花を見ながら歩きましょう」といったように、行動や場所、体験に具体性を持たせます。また、「ご飯を食べましょう」というよりも、「美味しい魚の料理ができました、食べてみませんか?」など、食事の内容や味に触れることで、興味を引きやすくなります。

感謝の言葉を伝える

コミュニケーションにおいて感謝の言葉を伝えることは、認知症の方との良好な関係を築く上で重要です。具体的な行動や協力に対して感謝の気持ちを表現することで、相手に喜びや安心感を提供できます。

例えば、日常の些細なことに対しても「今日のお手伝い、本当にありがとうね」といった言葉で感謝の気持ちを伝えることが大切です。また、「一緒に食事を楽しめて嬉しい」「いつも笑顔でいてくれてありがとう」といった具体的な感謝の表現も、相手に喜びや幸福感をもたらします。

認知症の人と話すときのポイント

認知症の人と話すときは、次のようなことを意識しましょう。

目線を合わせる

認知症の人とのコミュニケーションにおいて、目線を合わせることは非常に重要です。目線を合わせることで、相手に尊重されていると感じ、安心感を与えることができます。

例えば、軽い挨拶や会話の際に立っている場合は軽くしゃがんで目の高さを合わせ、座っている場合は椅子に座りながら相手の目を見るようにします。これにより、相手が話す意欲を高め、より深いコミュニケーションが可能となるでしょう。

安心させることを意識する

認知症の方との対話では、相手が安心してコミュニケーションを取りやすい環境を整えることが重要です。穏やかで優しい口調を心がけましょう。

急かすような言葉や強い口調は相手を不安にさせる可能性があります。例えば、「今から食事の支度をしましょうか?」といった言葉づかいがよいでしょう。

認知症の方は情報処理に時間がかかることがあります。急いで話すと理解しにくくなるため、ゆっくりとしたペースで話しましょう。例えば、「今日は〇〇をして〇〇をしますよ」と早口に伝えるのではなく、「今日はどんなことをしましょうか?」と緩やかなトーンで伝えます。

言葉には言葉でしっかりと返す

認知症の方との対話において、相手の発言に対して適切な返答を心がけることが重要です。相手の言葉に対して無反応や淡白な返事ではなく、具体的かつ温かい言葉で返すことがコミュニケーションを円滑に進めるポイントです。

例えば、相手が過去の思い出を話してきた場合、「それは素晴らしいエピソードですね。もっと教えてくれますか?」といった形で興味を示し、会話を深めるよう心がけましょう。

感謝や褒め言葉も大切にし、相手が話すことに対して肯定的な反応を示すことで、コミュニケーションの質が向上します。

わからないからといって放置しない

相手の理解力に限界がある場面でも、決して放置せずにサポートすることが大切です。認知症の方が何かを理解できない状況に遭遇した場合、無理に説明を続けたりせず、相手のペースに合わせてゆっくりと対応することが重要です。

例えば、簡単な言葉や身振り手振りを交えながら、優しく説明を重ねていくことで、相手が少しずつ理解しやすくなります。また、「わからないね、一緒に考えようか?」といった言葉で、協力的な態度を示し、一緒に問題解決に取り組む姿勢が大切です。

認知症の人と適切に会話する効果

認知症の人と適切に会話することには、次のような効果が期待できます。

活動に対して意欲的になる

認知症の方と適切に会話することで、活動に対して意欲的になる可能性があります。例えば、趣味や好きな活動について話すと、その人が以前に感じた喜びや充実感を思い出すことがあります。

以前、庭いじりが好きだった場合、「昔、きれいなお花を植えていたでしょう?どんな花がお気に入りでしたか?」といった質問をします。

このようなアプローチによって、認知症の方は自身の趣味や好きなことに対して興味を持ち、活動への意欲が喚起され、日常生活に前向きな影響を与えることが期待できます。

介護がスムーズになる

認知症の方との適切な会話は、介護をスムーズに進めることにつながります。コミュニケーションを通じて、感情や意向を理解できるようになれば、より適切なサポートを提供できるようになります。

例えば、入浴の際に「お風呂に入りたい気分ですか?」と尋ねたり、「今日は何を着たいですか?」と質問するなど、細やかな気配りが重要です。

このような配慮があることで、本人がリラックスしやすくなり、介護が円滑に進みます。また、信頼関係が築かれることで、介護者と認知症の方とのコミュニケーションがより円滑になるでしょう。

認知症の悪化を抑えられる可能性がある

適切なコミュニケーションによって、認知症の悪化を抑えられる可能性があります。言葉や態度に気を配った相手を尊重したコミュニケーションは、精神的な安定につながります。

例えば、「今日はどんなことが楽しかったですか?」といった質問をして、過ごした時間を振り返るきっかけを与えることで、記憶力や認識力の刺激になります。また、共感の言葉や笑顔を通じて、ポジティブな感情を引き出すことも大切です。

トラブルを起こすリスクが下がる

認知症の方と適切にコミュニケーションを取ることで、トラブルを起こすリスクが低減します。理解しにくい状況や不安を解消するために、丁寧で穏やかなコミュニケーションが大切です。

例えば、「何かお手伝いできることはありますか?」といった言葉をかけると、認知症の方が不安や困難を感じたときに助けを求めやすくなります。また、適切な言葉や態度で接することで緊張やストレスを軽減できるため、イライラしづらくなり、トラブルの防止につながります。

認知症の人とのコミュニケーションで意識したいこと

認知症の人とのコミュニケーションでは、さまざまなことを意識しなければなりません。介護者が大きなプレッシャーに耐えかねて介護ができなくなることもあります。そのような事態を防ぐために、認知症の人とのコミュニケーションでは次のようなことを意識しましょう。

信頼関係を少しずつ構築する

認知症の人とのコミュニケーションにおいて、信頼関係を築くことは非常に重要です。まず、穏やかでリラックスした態度を心がけ、「こんにちは、今日はどんなことをして過ごしましたか?」と声をかけ、相手がくつろげる環境を作ります。

自分を急かさず、相手のペースを尊重し、「お話を聞いていてもいいですか?何か気になることがあれば教えてくださいね」といった言葉で、相手が話すタイミングや内容を大切にします。

また、「昔はどんなことが楽しかったですか?」といった具体的な質問で相手の趣味や好きな話題に興味を示しましょう。

常に尊重と理解を示し、「あなたの気持ちはよくわかります。一緒に解決策を考えましょう」といった言葉で相手の気持ちや意見を大切にし、尊重します。

これらのアプローチを通じて、ゆっくりとしたペースで信頼関係を築いていくことができます。すぐに信頼関係を築こうとすれば、介護者としても心身ともに疲れてしまうでしょう。ゆっくりと時間をかけて信頼関係を築くことを目指してみてください。

外部のサポートも利用する

認知症の人とのコミュニケーションにおいて、外部のサポートを上手に利用することも重要です。まず、介護士やソーシャルワーカーなどのプロフェッショナルに相談し、アドバイスを得ることでより効果的なコミュニケーションの手法を学びます。

また、地域の認知症サポートセンターやグループ、イベントなどを利用して、認知症の方が積極的に社会と関わる機会を提供することも有益です。これらの場では、専門的なサポートを受けながら、他の認知症の方や家族との交流を通じて新たなコミュニケーションスキルを身につけることができます。

同じ境遇の人と悩みを共有する

同じ境遇の人々との交流も大切です。認知症サポートグループや地域のイベント、オンラインコミュニティなどを通じて、同じ経験をしたり同じ悩みを抱える人たちと交流することで、気持ちを共有しやすくなります。

介護は孤独感が強くなるとストレスが増大してしまうため、悩みを共有し、共感し合える仲間が必要です。成功体験だけではなく、失敗したこと、悩みなどを共有することで、介護者のストレスの軽減につながります。

認知症の家族の悩みや対策を共有し合えるコミュニティ「clila」

認知症の人とのコミュニケーションがうまくいかない場合、ストレスが溜まってしまうものです。だからといってコミュニケーションをおろそかにすると、介護もスムーズに進められません。

そのため、今回解説した認知症の人とのコミュニケーションのポイントを理解するとともに、同じ境遇の人と悩みや成功体験などを共有することが大切です。

認知症の家族との関わりが大変で、暴言への対処が難しいと感じている方には、コミュニティの『clila』をおすすめします。

『clila』では、同じような経験を持つ人たちと経験や悩みを共有できます。介護の大変さに共感し合ったり、対処法のアドバイスをし合ったりできるため、介護の円滑化や介護者のストレスの軽減につながります。

認知症の人の介護について悩みや疑問などがある方は、ぜひ『clila』をご利用ください。