暑い日や運動したあとでもないのに、手にたくさん汗をかいてしまうことはありませんか?日常に支障がでるほど手汗が多い場合「手掌多汗症」という疾患の可能性があります。
本記事では手汗の原因から手掌多汗症の詳しい解説、医療機関で保険適用で受けられる治療方法、自分でできる手汗の防止・対処法を紹介します。
手汗に困っている方はぜひお役立てください。
目次
手汗が多くて困っていませんか?
手汗が多いとPCやスマホが思うように操作できなかったり、書類が手汗で濡れてしまったりと、生活で不便を感じることはないでしょうか。手汗は学校や仕事で不便を感じるだけでなく、人間関係に支障をきたすこともあります。
まずは手汗が多いことで感じやすい、お悩みの例を紹介します。
PC業務や書類の取り扱いなど、仕事に支障がでる
手汗によって、PCを使った業務に不便を感じる方も多いのではないでしょうか。手汗が多いとキーボードやマウスが汗で滑って操作できなかったり、べたつきが気になって何度も汗を拭いたりすることで、仕事中に気が散ってしまうこともあるでしょう。
また、職場の共有パソコンやマウスを使用する際は、こまめに汗を拭いたり、手袋を着用したりと、他の人に気を遣っている方もいます。
関連記事:手汗でマウスが濡れて困る…手掌多汗症の方の手汗対策について解説
PC業務に限らず、手汗は書類の取り扱いや文字をかくことにも影響しやすいです。紙類が汗で濡れてしまい、文字が書けなくなってしまうこともあります。
このように手汗は精神的に恥ずかしいということだけでなく、ビジネスの面でもさまざまな支障が生じます。
スマホが操作しづらかったり、電子機器を壊したりしてしまう
手汗はスマホの操作や扱いにも不便が生じやすいです。手汗によって指先が濡れていると、指先がすべって上手く操作できなかったり、タッチパネルが反応しなかったりしてしまうことはないでしょうか。
また、手からスマホが滑り落ちたり、手汗によって電子機器が濡れることで、スマホやリモコンが壊れてしまうパターンもあります。
参考:みんなの手の汗あるある|手汗のお悩み解決情報サイト みんなの手の汗サイト
手をつないだり、握手したりするシーンで困る
手汗は学校生活や社会生活において、人間関係やコミュニケーションにも影響しやすいです。手汗が多いことを気にして、手をつないだり握手したりする機会を避けてしまうようになることがあります。
なかには、学校のレクリエーションやイベントで手をつなぐ必要があるとき、手汗のことを指摘されたり、手をつないでもらえなかったりした経験で傷付いたという方もいるでしょう。
手汗の多汗症の場合、小学校入学時期から思春期に発症することが多いです。学校生活をおくるにあたって深刻な悩みになったり、精神的なコンプレックスから鬱の原因になったりすることもあります。
汗が増える原因は?
そもそもどうして汗が増えるのかというと、体温を調節するためです。汗を流すことにより、身体が熱くなりすぎるのを防いでいるのです。
しかし、発汗される要因には、体温の高さによる「温熱性発汗」のほかにも、緊張やストレスによる「精神性発汗」と味覚の刺激による「味覚性発汗」があります。
発汗が行われる3つの原因を見ていきましょう。
温熱性発汗
暑い時や運動をしたときに起きる、体温を調節するための発汗が「温熱性発汗」です。
汗をかくと、汗の水分が皮膚で蒸発する際に周りから熱を吸い取り、皮膚の温度が下がります。この仕組みから体温を下げて、身体が熱くなりすぎるのを防ぎます。温熱性発汗は手のひら・足の裏を除く全身から発汗します。
精神性発汗
精神性発汗は、人前に出て緊張したときや驚いたときなど、感情やストレスによって発汗することです。温熱性発汗と違い、手のひら、足の裏、脇など局所的に汗をかきます。手汗が増える原因は精神性発汗によるものです。
味覚性発汗
味覚性発汗は、辛いものを食べたときに起こる発汗のことです。香辛料がきいた辛いものやすっぱいものを食べた時、味覚の刺激によって反射的に起こります。額や鼻に起こりやすく、食べ終わると汗が自然に引くのが特徴です。
手汗が増える原因は自律神経?
上記の発汗のなかから、手汗の量が増える原因は精神性発汗です。
精神性発汗によって汗が増える原因は、自律神経が乱れて交感神経が活性化することです。交感神経は手の汗腺に作用して発汗を促進する作用があります。
交感神経が活性化する原因はストレスや緊張、生活習慣の乱れ、ホルモンバランスの乱れなどが挙げられます。
手汗が気になるなら手掌多汗症かもしれません
暑かったり、運動したりしたわけではないのに手汗が大量に分泌されているのなら「手掌多汗症」の可能性があります。
多汗症とはさまざまな要因によって必要以上に汗をかき、日常生活に支障がでてしまう状態のことです。手掌多汗症は手のひらのみ、汗の量が増えるのが特徴です。
多汗症と診断された場合、医療機関で保険適用の治療を受けられます。
手掌多汗症とは
多汗症には全身に大量の汗をかく「全身性多汗症」と、手のひらや足の裏、脇など局所的に大量の汗をかく「局所多汗症」があります。
それぞれ病気や薬の副作用などを原因とする「続発性多汗症」と、はっきりとした原因がなく手に異常な量の汗をかく「原発性局所多汗症」に分かれます。
手掌多汗症の原因
原発性手掌多汗症の明確な原因は分かっていませんが、手に分泌されている交感神経の活性化が関わっていると予測されています。
交感神経は手の汗腺に作用して発汗を促す神経です。通常は緊張しているときや体温が高くなったときに活性化して汗を出すのですが、手掌多汗症の場合、この交感神経が常に活性化しています。
このことから、手掌多汗症の原因として考えられる原因を見ていきましょう。
ホルモンバランスの乱れ
ホルモンバランスが乱れると自律神経のバランスが不安定になることから、多汗症につながる可能性があります。特に女性の場合は生理周期や更年期に伴うホルモンバランスの変化が、自律神経に影響しやすいです。加齢やストレス、不規則な生活などもホルモンバランスが乱れる原因になります。
性格の遺伝
現在、手掌多汗症の遺伝的原因は解明されていません。しかし、過度な手汗は精神的な発汗によるものなので、性格が影響すると考えられています。そのため、緊張しやすい、ストレスを溜めやすいなど、神経質な性格の遺伝が多汗症につながる可能性は否定できません。
生活習慣の乱れ
睡眠不足、運動不足、隔たった食生活、ストレスなど、生活習慣の乱れは自律神経を乱す原因になります。そのなかでも精神的なストレスは交感神経を活性化させる代表的な原因です。
喫煙、アルコール、カフェインの過剰摂取も交感神経を刺激することから、発汗につながります。
手汗が気になるなら医療機関の治療がおすすめ
2020年、日本皮膚科学会が60,969人に行ったアンケート調査によると、原発性局所多汗症の有病率は10.0%という結果でした。部位は腋窩(脇)が5.9%と最も多く、手掌は2.9%でした。
しかし、このなかで医療機関への受診経験率は4.6%という結果が出ています。さらに、受診継続率は0.7%という結果から、多汗症のなかで治療を続けている人は1%以下と非常に少ないことが判明しました。
多汗症の放置は精神的に恥ずかしいと感じたり、人とのコミュニケーションに不自由を感じたりするだけでなく、汗疹ができて皮膚炎につながったり、真菌や細菌によって、汗腺から臭いが発生することもあります。
皮膚科や形成外科では、多汗症の症状に合わせた治療を保険適用で受けることができます。手汗に限らず汗の多さに悩んでいるなら、早めに医療機関を受診するのがおすすめです。
参考:原発性局所多汗症診断ガイドライン2023年改訂版|公益社団法人日本皮膚科学会
手掌多汗症の診断・重症度レベル
「手汗が多いと感じるけど、病院に行くほどだろうか?」「多汗症かどうか自信がない…」と迷っている方は、以下の多汗症の基準を参考に、セルフチェックしてみましょう。
日本皮膚科学会の原発性局所多汗症診断ガイドラインでは「明らかな原因がないまま身体の一部分だけ過剰な発汗が6ヶ月以上続いている」ことと、以下の「6つの項目のうち2つ以上当てはまること」で局所多汗症と診断されます。
- 最初に症状が現れたのが25歳以下である
- 左右対称に発汗が現れる
- 睡眠中は発汗が止まっている
- 1週間に1回以上、多汗のエピソードがある
- 家族歴がある
- 多汗によって日常生活に支障をきたしている
さらに、局所多汗症のなかでは4段階の重症度を測る指標があります。
- 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
- 発汗は我慢できるが、日常生活はたまに支障がある
- 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- 発汗は我慢で生きず、日常生活に常に支障がある
上記のなかで3、4に該当する場合、重症と診断されます。
参考:原発性局所多汗症診療ガイドライン2023改訂版|日本皮膚科学会ガイドライン
医療機関で行う手汗検査方法
汗のことで医療機関を受診すると、最初に問診が行われます。多汗症を診断するために、以下のような内容の質問をされます。
- ・汗の多さによって、日常生活に困難を感じることはあるか
- ・最初に症状が現れたのは何歳か
- ・異常な量の汗が出る頻度は、1週間に1回以上か
- ・手からでる汗は、両手に左右差はあるか
- ・睡眠中の汗が気になるか
- ・家族や親戚に多汗症の人はいるか
問診のあと、汗の状態を目で確認する視診に移ります。問診や診察の結果から、必要に応じて以下のような検査を行います。
多汗症の検査方法
医療機関で行う手汗防止・改善治療
原発性手掌多汗症は、皮膚科や形成外科で保険適用の治療を受けられます。手掌多汗症の治療には、外用薬から外科手術まであります。
原発性手掌多汗症治療薬「アポハイドローション」
アポハイドローションは、原発性手掌多汗症の治療薬として開発された外用薬です。
アポハイドローションを手のひらに塗ることで、有効成分「オキシブチニン塩酸塩」が、皮膚の下にある交感神経から出される発汗を促進する物質(アセチルコリン)をブロックする抗コリン作用を発揮し、過剰な発汗を抑えます。多汗症の代表的な外用薬である塩化アルミニウムローションのように汗腺を防ぐのではなく、発汗に導く神経伝達物質そのものを遮断させます。
薬価は2023年6月に保険適用になり、3割負担だと707.4円(約710円)です。
アポハイドローションについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:アポハイドローションは保険適用の手汗治療薬!効果・薬価・副作用を解説
外用薬・内服薬
アポハイドローションは手掌多汗症用の治療薬ですが、足や脇の多汗症にも使用出来る外用薬や内服薬の治療もあります。
手足の外用薬で代表的なのが、塩化アルミニウムです。手のひらや足裏に塗ると汗腺を塞いで、発汗を抑制します。制汗剤にも使用されている成分ですが、医療機関で処方される塩化アルミニウムローションのほうが高濃度なため、高い制汗効果が期待できます。
デメリットとして、現在塩化アルミニウムの保険適用の外用薬がないため、院内製剤として自費診療での処方になります。費用は100mlで約1,100円~1,500円くらいです。
内服薬では抗コリン薬(プロバンサイン)などが処方されます。抗コリン薬は発汗の原因となる神経伝達物質アセチルコリンの働きを抑制する作用があります。エクリン汗腺からの発汗を抑制することで手掌多汗症に効果が期待できますが、口の渇きや眠気などの副作用が起こる可能性があるので、服用の際は注意が必要です。
手掌多汗症治療において、抗コリン薬は保険適用になります。3割負担の場合、28日分で約1,000円程度です。
ボトックス注射
ボトックス注射は外用薬や内服薬のように毎日継続する必要がない注射療法です。エクリン汗腺の活動を抑制することで、過剰な汗の分泌を抑制します。効果の持続期間は個人差がありますが、約4~9ヶ月くらいです。
脇の多汗症治療としては保険適用になりますが、手掌多汗症では保険適用外になります。値段は病院と単位(※ボトックスの量)によって異なりますが、両手のひら100単位44,000円、200単位80,300円くらいが相場です。
イオントフォレーシス
イオントフォレーシスは、水道水を通して手や足に直接電流を流す治療法です。
多汗症の部位に微弱な電流を20分くらい流すことで、電気分解によって生じた水素イオンが汗腺に作用し、発汗を抑制します。多汗症の代表的な治療ですが、治療を継続しないと効果は持続されません。
保険適用の治療で、3割負担で1回660円くらいで受けられます。
発汗神経の切除手術
上記のような治療で十分な効果が得られない場合、希望の患者さんには胸腔鏡下胸部交感神経節切除術(ETS)が適応になることがあります。この手術では多汗症の原因となる神経管を直接切除するので、手のひらの汗を確実に減らすことができます。手術のプロセスとしては、胸の横と腋窩に傷をつけて胸腔鏡を挿入し、モニターを見ながら交感神経管を遮断します。
神経管が遮断されたら、手術直後から手の汗が止まります。胸部神経遮断手術のリスクは治療後の90〜100%くらいの確率で「代償性発汗」が生じることです。代償性発汗の症状は、背中、胸、胴回り、お尻、膝の裏など、手のひら以外の箇所の汗が増えます。
代償性発汗の汗の量には個人差があり、なかには日常生活に支障をきたすほど増えることもあるでしょう。代償性発汗の治療や手術はないので、胸部神経遮断手術はリスクを踏まえて、慎重に検討する必要があります。
胸腔鏡下胸部交感神経節切除術は保険適用です。3割負担の場合、治療費は約9~10万円、入院する場合は約12~15万円くらいが相場になります。
自分でできる手汗防止・対策法
最後に、日常生活において自分でできる手汗防止方法を紹介します。治療を受けるか悩んでいる方は、まずは以下で紹介しているような市販品を使用してみたり、生活習慣を整えてみたりするのも良いでしょう。
吸水性の高いタオルやウェットシートで手汗をケアする
手汗対策として一般的なのが、手汗をこまめに拭き取ることです。一時的な対策になりますが、手軽に不快感を軽減することができます。特に手汗の量が多い方は、吸水性の高いタオルを使用するのがおすすめです。
べたべたとした不快感が気になる方は、エタノール配合のウェットシートやボディシートを使用すると良いでしょう。エタノールには蒸発する際に熱を奪う性質があるので、スッキリとした清涼感を感じられます。
制汗剤やベビーパウダーを使用する
ドラッグストアで購入できる医薬部外品の制汗剤やベビーパウダーでも、一時的に手汗をケアすることができます。
制汗剤には、制汗効果が承認された有効成分が配合されています。高い制汗効果を重視する方は、クロルヒドロキシアルミニウム配合の制汗剤がおすすめです。汗腺を防ぐ作用があり、市販のさまざまな制汗剤に使用されている成分です。
制汗剤にはスプレータイプ、クリームタイプ、スティックタイプなどさまざまな種類があります。スプレータイプは全身の汗を対策するには効果的ですが、手のひらに使用するなら密着力の高いクリームタイプやジェルタイプがおすすめです。
手汗の量が多くない場合は、ベビーパウダーでもケアすることができます。パウダーを叩くことで手汗の水分を吸収し、サラサラな状態を保つことができます。
上記のようなアイテムでも手汗のケアはできますが、市販の制汗剤やベビーパウダーは治療薬ほどの効果はありません。手汗の量が多い方は医療機関で外用薬を処方してもらいましょう。
睡眠不足やストレスに注意
手汗が増える原因は、交感神経の活性化による精神性発汗だと考えられています。睡眠不足や生活リズムの乱れは自律神経を乱す原因になるため、適度な運動を取り入れて、質の良い睡眠をしっかりとることが重要です。
ストレスも自律神経の乱れに影響するため、心身共に休養をとるように意識しましょう。運動や旅行、森林浴や入浴などから、自分に合ったストレス解消法を見つけることがポイントです。
食生活を整える
食生活の隔たりや栄養不足は自律神経の乱れにつながるので、普段から栄養バランスの良い食生活を意識することが重要です。たんぱく質、脂質、炭水化物の三大栄養素を意識して、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を意識しましょう。朝は忙しいという方は、バナナ+ヨーグルトや、おにぎりと野菜ジュースだけでもカルシウムを摂取できます。
ストレスが溜まっている方は、トリプトファン、カルシウム、ビタミンB群など精神の安定に関係する栄養素を積極的に摂取するようにしましょう。食材は乳製品や大豆製品、豚肉、鶏肉、緑黄色野菜、バナナなどがおすすめです。
また、アルコールやカフェイン、ニコチンには交感神経を刺激する成分が含まれているため、過剰に摂取すると発汗が促進されます。そのため、汗の量が気になるなら、飲酒や喫煙を控えることも検討しましょう。
参考:ちょうどよいバランスの食生活|農林水産省 消費・安全局 消費者行政・食育課
適度に運動する
手掌多汗症の原因と考えられる自律神経の乱れは、運動不足も影響します。デスクワークの普及で運動不足になりがちな現代ですが、ウォーキングやストレッチなど適度な運動を取り入れることで、睡眠の質の向上や、ストレス解消効果が期待できます。
また、運動を楽しむと脳の神経伝達物質である「セロトニン」が増えます。セロトニンは精神の安定や安心感など、ストレスに対して効能のある脳内物質です。特にウォーキング、ランニング、水泳、ヨガなどの有酸素運動は脳とセロトニンを活性化させることから、ストレス解消に効果が高いといわれています。
手汗の治療はおうち病院「オンライン多汗症外来」がおすすめ
手汗が多いと文字を書くときに紙が濡れてしまったり、手をつないだり握手をするとき相手に不快感を与えないか心配になったり、生活や人間関係にさまざまな影響がでます。
しかし、手汗で悩んでいる人の多さに対して、医療機関を受診する方は少ないのが現状です。手汗を放置していると精神面や社会生活に影響するだけでなく、汗疹によって皮膚炎を起こしたり、雑菌繁殖による臭いなどが発生したりするリスクがあります。そのため、手汗に悩んでいる方は一度医療機関を受診するのがおすすめです。
おうち病院「オンライン多汗症外来」では、自宅に居ながら多汗症の診察と薬の処方を受けられます。患者さま一人ひとりの症状に合わせた治療法を提案していて、手掌多汗症用の治療薬「アポハイドローション」も、保険適用で処方しています。
ビデオ通話で診察を受けられるので、手汗で病院に行くのをあまり知られたくない方や、通院が忙しい方にもおすすめです。過剰な手汗に悩んでいる方は「体質だから」と一人で抱え込まずに、お気軽にご相談ください。