認知症の徘徊対策にGPSが有効な理由と端末の持たせ方を解説

徘徊は認知症によって起こる症状の一つです。昼夜問わず、屋内や屋外をあてもなく歩き回るように見える行動であり、場合によっては行方不明になるケースもあります。 「徘徊をどうにかしたい」「行方不明にならないための対策を知りたい」という方も多いのではないでしょうか。認知症の徘徊対策として、GPSを持たせることがとても有効です。 そこで今回は、GPSを持たせることが徘徊対策に有効な理由、認知症の方へのGPSの持たせ方などを解説します。

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徘徊は認知症によって起こる症状の一つです。昼夜問わず、屋内や屋外をあてもなく歩き回るように見える行動であり、場合によっては行方不明になるケースもあります。

「徘徊をどうにかしたい」「行方不明にならないための対策を知りたい」という方も多いのではないでしょうか。認知症の徘徊対策として、GPSを持たせることがとても有効です。

そこで今回は、GPSを持たせることが徘徊対策に有効な理由、認知症の方へのGPSの持たせ方などを解説します。

認知症における徘徊は行方不明になるケースも多い

高齢化社会が進む日本において、認知症患者の徘徊は社会問題となっています。

実際に警察庁生活安全局人身安全・少年課の「令和4年における行方不明者の状況」によれば、令和4年における行方不明者の原因・動機として疾病関係が24,719人(構成比29.1%)で最も多いとのことです。さらに、認知症またはその疑いによるものは18,709人(構成比22.0%)であると報告されています。

認知症には物忘れなどが起きる記憶障害や、言葉がうまく話せなくなる言語障害など、さまざまな症状があります。徘徊は、認知症の代表的な症状の一つである、日付や場所がわからなくなる見当識障害により引き起こされます。

前述の通り、徘徊は行方不明になるリスクがあるため、事前に対策することが必要です。近年は、認知症患者にGPSを持たせることで、リスクを未然に防止するケースが増えています。

「親が認知症で徘徊が心配」という方は、ぜひGPSを持たせることを検討してみてください。

認知症の徘徊対策にGPSを持たせるのが有効な理由

ご家族からすれば、認知症の方が徘徊することは行方不明を含めた事件・事故のリスクがあって心配になるものです。

とはいえ、身体が動く状態なのに家に閉じ込めてしまえば、認知症を進行させることにつながるため、避けるべきです。また、「外出はやめて」と言うと、認知症の方が不満を感じて暴言を発したり、パニック状態に陥ったりすることもあります。

こうしたことから、外出を完全に止めることは困難です。

元気なうちは外出しても仕方がないと考え、その上で徘徊に対する対策をとっておくことが大切です。以下では、徘徊対策にGPSが有効である理由を解説します。

徘徊のタイミングがわかる

徘徊のタイミングを知ることは、認知症の徘徊対策に重要なことです。認知症の親が出かける前に「行ってきます」などの声をかけてくれればいいですが、何も言わずにフラッと出かけてしまうこともあるでしょう。

そうした場合、出かけたことを後で知って、ご家族が焦って探すことはよくあるものです。

GPSを持たせておけば、徘徊のタイミングやいまどこにいるのかがすぐにわかります。そのため、家事などをしていて出かけたことに気が付かなかったとしても、行方不明になるリスクを防止できます。

周囲と連携しやすくなる

徘徊により行方がわからなくなった認知症の方を周囲と協力して捜索する際、GPSを持っていれば連携しやすくなります。

徘徊によるリスクを防止するためには、周囲との連携が不可欠です。友人知人はもちろん、担当のケアマネージャーなどといつでも連絡が取れるようにし、捜索の協力体制を整えておくことが大切です。

とはいえ、あてもなく行方を探すのは簡単ではありません。認知症の方は思いがけない行動を取り、意外な場所に赴いていることもあるためです。しかしGPSを持たせておけば居場所が把握でき、近くにいる関係者が保護に向かうことができます。

早期発見につながる

認知症の方が徘徊により行方不明になってしまった場合、できる限り早く発見することが大切です。発見が遅れれば遅れるほど、認知症の方は不安を感じたりパニック症状が強く出たりするためです。その結果、事件・事故に巻き込まれることもあります。

GPSを持たせておけば、本人の居場所はすぐにわかり、早期発見できるようになります。GPSを活用して、本人がパニックになってしまう前に、なるべく早く保護してあげましょう。

認知症の方に持たせられるGPSの種類

認知症の方に持たせられるGPS機器にはさまざまなものがあります。認知症の方の生活習慣や癖、希望などを考慮して、最適なものを選びましょう。

以下では、GPSの種類とその特徴を解説します。

電話型

電話型のGPSはスマホ程度の大きさのもので、後述するストラップ型などと比べるとサイズが大きいものです。そのため、財布以外の荷物を普段から持ち歩かない方や電話を使わないような方の場合、持たせるのには工夫がいります。

しかし、電話型のGPSは豊富な機能を利用できるのが特徴です。GPS機能はもちろんのこと、ストラップを引くなどの簡単操作でサービススタッフに連絡できたり、ご家族が迎えに行けないときにスタッフが駆けつけたりといった機能・サービスがあります。

月額の基本料金は数千円程度なので、多機能のわりにはリーズナブルであることも特徴です。認知症の方が持ってくれるようであれば、電話型GPSはぜひ検討してみましょう。

靴型

靴型GPSは、靴の中に小型のGPS機器が内蔵されています。

認知症の方によっては、「GPSを持ち歩くのは嫌だ」「無くしそうで不安」と、GPSの利用を敬遠することもあります。しかし、いつも履いている靴に内蔵されていれば、持ち歩くわけではありませんし、無くすこともまずありません。

そのため、GPSの中でも比較的利用しやすいタイプと言えます。

靴型GPSには、自宅からの距離や外出からどのくらい時間が経過したのかなどを通知してくれる機能を利用できるものがあります。種類によって機能は異なりますので、比較検討してみてください。

費用はレンタルであれば月額3,000円程度、購入の場合は通販サイトを利用すれば1万円前後で入手可能です。

ストラップ・キーホルダー型

ストラップやキーホルダー型のGPSは、認知症の方に持たせる定番のGPS機器です。

手のひらサイズでとても小さく重量が軽いため、認知症の方でも負担なく持ち歩けます。ストラップやチェーンを利用すれば、いつも持ち歩くバッグなどにつけられるため、持ち忘れも予防しやすいです。

ストラップ・キーホルダー型のGPSによっては、ご家族のスマホへの出発・到着のお知らせ通知や双方向ボイスメッセージ機能を持つものもあります。小さいながらも高機能である点もメリットと言えそうです。

費用は本体価格が5,000円前後、月額通信費は500円前後なので、利用しやすいのではないでしょうか。

スマートウォッチ型

近年はスマートウォッチが流行し、高齢者の方も身に着けている方が多くいます。

スマートウォッチはそのほとんどがGPS搭載ですので、持たせれば認知症による徘徊防止にも役立ちます。見た目は普通の時計と同じですから、認知症の方も恥ずかしい思いをすることなく身に着けられます。

また、身に付けている人の活動状況や心拍数、その日の天気や気温なども知ることができるため、認知症の方もご家族も安心して利用できます。高機能のスマートウォッチであれば、転倒を自動検出して緊急通報するといった機能もあります。

価格はGPSのみであれば数千円程度、その他さまざまな機能を有するものであれば数万円ほどかかります。利用シーンに応じて、必要なものを選びましょう。

ブレスレット型

GPSを搭載したブレスレットもあります。いかにもGPSというデザインではなく、比較的おしゃれで認知症の方が気軽に身に着けられるものが多いのが特徴です。

ブレスレットというと、もしかしたら金属アレルギーの心配をされる方もいるかもしれませんが、金属以外にもシリコン製などさまざまな素材がありますので、安心して持ち歩かせられます。

機能面は基本的にGPSが搭載されているだけのシンプルなものです。しかし中には、ブレスレットの内側に住所・名前などを記載するスペースを持つものもあります。本人情報は徘徊対策としてはシンプルですが有効です。

1万円以下から購入できますので、プレゼントとして買ってあげるのも良いのではないでしょうか。

認知症の人へのGPSの持たせ方やポイント

GPS機器の購入を検討しているものの「どのように持たせればいいのだろう」とお悩みの方も多いことでしょう。GPSは外出時に必ず持っていってもらわなければ意味がありません。

以下では、認知症の方へのGPSの持たせ方について解説します。

普段の服装や持ち物を想定する

まずは認知症の方が外出時にどのような服装をしているのか、何を持っていっているのかを考えてみましょう。

たとえば、女性であれば小さなカバンやリュックを持ち歩くことが少なくありません。一方、男性だと財布以外は持たずに出てしまうことも多いです。こうした本人の外出時の状態をイメージし、GPS端末を選びましょう。

荷物の持ち歩きを嫌うならば靴型、おしゃれ好きならブレスレット型、持ち歩くバックがあるならストラップ型を付けておくといった工夫をしてみましょう。

本人の性格を理解する

本人の性格を考慮した上で、持ち歩きやすいGPSを選ぶ、持たせやすい工夫をすることも大切です。

認知症の方によっては、「GPSなんて恥ずかしいから嫌だ」と持ち歩きを拒否するケースもあります。そういった場合は、なるべく目立たないようなGPS機器を持たせると良いでしょう。

たとえば、スマートウォッチ型であれば身に付けていても自然なので、認知症の方が恥ずかしいと感じることもほぼありません。

持たせ方事例

GPSは本人の普段の持ち物・服装、性格などによって持たせ方が変わります。
以下で、実際によくあるGPS機器の持たせ方事例を紹介しますので、参考にしてみてください。

  • ・カバンやポーチに忍ばせる

普段から使っているカバンやポーチにそっと忍ばせておくケースは多いです。女性の方であれば、外出時にポーチを持つことが多いので、持たせ方としてとても有効と言えます。

たとえば、カバンに縫い付けたり二重底にしたりなど工夫をすると、本人は気づかずにGPSを持ち歩いてくれやすいです。

  • ・自転車や車に取り付けておく

自転車や車を利用して徘徊されてしまうと、移動範囲が一気に広がるため、ご家族は探すのにとても苦労します。もし認知症の方が外出時に自転車や車を利用することが多いのであれば、それらにGPSを取り付けておきましょう。

自転車であれば、密閉型のケースに入れてフレームに取り付けると雨天時も安心です。車であれば、トランクやダッシュボードにしまっておきましょう。

  • ・お守り袋につけておく

意外と多いのが、交通安全などのお守りにGPSを入れるケースです。キーホルダー型などであれば、サイズが小さいのでお守り袋に入れても違和感がありません。「交通安全のお守りだから」と言って渡せば、認知症の方も納得して持ち歩いてくれることでしょう。

  • ・専用シューズを履かせるように仕向ける

いつも履く靴にGPSを取り付けたり、GPS内臓の専用シューズを履かせたりすることも効果的です。GPSの入ったシューズを履かせたい場合は、玄関に1足だけ置いておくと履いてくれやすいです。

また、「膝に負担がかかりにくい靴」「おしゃれな外出用の靴」としてプレゼントすると、気に入って履いてくれやすいです。

  • ・上着に縫い付けておく

男性の場合、財布以外は何も持ち歩かずに外出してしまうことが少なくありません。そうした場合は、いつも身に付けている上着などにGPSを忍ばせておくようにしましょう。

気に入っているジャケットであれば、外出のたびに毎回着ていくことが多いので、それとなく忍ばせてみましょう。また、「外に出るならこの服がいいよ」とプレゼントした上着にGPSを縫い付けておくのも良いかもしれません。

GPSを持たせる以外の認知症徘徊対策

認知症の徘徊対策としてGPSを持たせることはかなり有効です。しかし、持たせ方を工夫しても、「たまたまGPSを持たずに外出してしまった……」というケースはあり得ます。

そこで以下では、GPSを持たせる以外の認知症の徘徊対策について解説します。

一緒に外出する

認知症の方によっては、唐突に外出衝動が湧き出ることがあります。認知症によりできることが減って、話し相手がいなくなり「外に出てみようかな」という気持ちになることがあるためです。

そうした外出衝動を抑えるために、たとえば一緒に外出してみるのは良いかもしれません。一緒に外出すれば徘徊によって行方不明になることはありませんし、散歩しながら話すことで認知症の方のストレス解消にもなります。その結果、外出衝動が軽減されて、一人で唐突に徘徊しにくくなることもあります。

また、一緒に外出した際に「どこでも好きなところに行こう」「いつも歩いているところを一緒に歩きたいな」と伝えてみましょう。認知症の方の行動パターンやスタイルが把握でき、万が一の徘徊時に役立ちます。

生活面における対策

徘徊しにくくする認知症の方の生活面に目を向けて対策することも良いでしょう。

たとえば、自宅でできる簡単な手作業や趣味があれば、外出する頻度は減ります。作業により頭を使いますので認知症の進行を和らげたり、作業の達成により自己肯定感を得られたりといったメリットもあります。

また、生活リズムが崩れると徘徊しやすくなる可能性があります。認知症の方の体調や生活リズムを注意深く見守り、管理することも心がけましょう。

カメラやセンサーの活用

カメラやセンサーを活用するのも良いでしょう。

たとえば、玄関にセンサーやカメラを取り付けておけば、認知症の方が外出したタイミングを知ることができます。カメラによっては、人感センサーにより外出する人の画像を撮影してスマホに送信する機能もあります。

これを活用すれば、ご家族の手が離せないときでもすぐに外出タイミングを知れるので便利です。

万が一の場合に備える

徘徊して行方不明になった場合に備えておくことも大切です。

まずは、さまざまな工夫をしてGPSを持ってもらうようにしましょう。GPSを落としてしまったときに備えて、連絡先や氏名を記載したメモを財布に入れたり、服に縫い付けておいたりするのも有効です。

行方不明時にすぐ捜索できるように顔写真をあらかじめ用意しておくのも良いでしょう。また、親が認知症であることを近所に伝えておき、連携を取りやすくしておくのもおすすめです。

地域サービスの活用

地域サービスの利用も検討しましょう。たとえば、「徘徊・見守りSOSネットワーク」は、自治体が中心となって認知症の方の徘徊に対応する制度です。事前に、地域包括支援センターや警察などの窓口で登録しておくと、万が一の備えになります。

また、行方不明になったらとにかくすぐに警察に連絡することが大切です。「家族のことなので……」と躊躇される方もいますが、徘徊は早期発見が何よりも重要です。むしろ、早く捜索依頼すれば捜索範囲が狭くなり、迷惑をかけにくいです。

大切な人を守るためにも、躊躇せずに警察へ連絡しましょう。

認知症の家族の悩みや対策を共有しあえるコミュニティ「clila」

認知症による徘徊は、高齢化社会が進む日本において大きな問題となっています。

徘徊により行方不明になれば、認知症の方の命の危険があるため、ご家族としては不安になることでしょう。今回解説したように、GPSを持たせれば居場所がわかりますので、早期発見により徘徊のリスクを大幅に軽減できます。ぜひ活用してみてください。

また、そうした徘徊などの認知症対策にお悩みの方は、疾患別コミュニティ「clila」をご活用ください。

「clila」は、症状ごとの悩みを共有するコミュニティです。認知症の介護をするご家族も多く集まり、GPSの持たせ方やその他の徘徊対策について意見交換をしています。専門家による投稿もありますので、介護のヒントが見つかるかもしれません。

「親の徘徊が心配」「以前、行方不明騒動になった」など介護上の不安があれば、ぜひ「clila」に参加してみてください。