認知症による暴言の対策方法は?予防方法や相談先も解説

認知症の方の暴言に悩まされている場合は、暴言の理由を確認したうえで適切に対処しましょう。暴言の原因を解消すれば、暴言の数が減ったりなくなったりする可能性があります。

また、必要に応じて周りの人や専門機関、コミュニティなどに相談し、サポートを受けることも大切です。

本記事では、認知症による暴言の対策方法や予防方法、相談先などについて詳しく紹介します。

認知症の方の暴言の理由

認知症の方の暴言には理由があります。理由に関係なく頭ごなしに叱ったり罰を与えたりすると信頼関係が崩れる恐れがあるため、まずは理由について確認が必要です。

主に以下のような理由が考えられます。

・不安を感じている

・混乱している

・感情をコントロールできない

・周りの人の感情の影響を受けた

・自尊心が傷ついた

・体調が悪くてストレスを感じやすい

それぞれ詳しく見ていきましょう。

不安を感じている

認知症の方に暴言が見られた場合は、何らかの理由で不安を感じている可能性があります。認知症の方は現在の状況を理解できず、不安を抱えています。

周囲の状況や周りの人と自分の関係性などを覚えることが難しいため、繰り返し同じ質問をしたり、過去の出来事を忘れたりします。このような不安の表れとして、暴言を口にすることがあります。

混乱している

認知症の方は、脳の機能低下によって記憶力、思考力、判断力などが低下します。その結果、現実を正しく認識することが難しくなり、混乱することがあります。

混乱した状態では、時間や場所の感覚が曖昧になったり、人々の身元や関係性を認識できなくなったりします。このような状況下では、不安や恐怖心が高まり、暴言を口にすることもあるでしょう。

感情をコントロールできない

認知症を発症すると、脳の前頭葉の機能が低下して感情のコントロールが難しくなる場合があります。怒りや不安、恐怖といった感情が急激に高まることで、暴言を口にしてしまいます。

周りの人の感情の影響を受けた

認知症の方は、周囲の人の感情や雰囲気の変化を敏感に察知する傾向があります。そのため、周りの人の感情の影響を受けて暴言を口にすることもあり得ます。例えば、周りの人が怒った口調で話すと、認知症の方も怒りやすくなります。

自尊心が傷ついた

認知症の方の中には、自分の能力の低下を自覚している方もいます。周りの人に赤ちゃん言葉で対応されたり、どこまで脳の機能が残っているのかを試されるような言動をされたりすると、自尊心が傷ついて暴言を口にすることがあります。

体調が悪くてストレスを感じやすい

認知症の方は、自分の体調不良や痛みを正確に理解し、周囲に伝えることが難しいため、

大きなストレスを感じてしまいがちです。認知症ではない方は、痛みや不快感を周りの人に伝えたり原因を探ったりできます。

しかし、認知症の方は体調が悪くてもどうすればよいかがわからず、強いストレスを感じる傾向があります。やり場のない怒り、やるせなさなどが暴言として現れてしまいます。

認知症の方の暴言の対策方法

認知症の方の暴言がひどいと、介護者や家族も精神的なストレスを感じます。我慢し続けると介護の質が低下したり、結果的に介護を放棄したりすることにつながりかねません。

認知症の方が暴言を口にするようになった場合の対策方法は、以下の2点です。

・距離を取る

・周りの人に相談する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

距離を取る

まずは、これ以上暴言によるストレスを感じないように、認知症の方から物理的な距離を取りましょう。そして、ゆっくりと深呼吸をして自分を落ち着かせてください。

気持ちを切り替えてから、なぜ暴言を口にするようになったのかを考えることが大切です。

周りの人に相談する

周りの人に暴言に関する悩みを話すだけでも、気持ちが少しは楽になるでしょう。また、相談相手から、認知症の方の暴言に対する適切な対応方法や、自身のケア方法を学ぶことができます。

このとき、自治体が認知症ケアパスを制定していないか確認しましょう。認知症ケアパスは、認知症の症状や段階に応じてどこでどのような医療・介護サービスを受けられるのかをまとめたものです。相談先が明確になることで、速やかに対応できるようになります。

それでは、認知症の方の暴言に悩んだときの相談先について詳しく見ていきましょう。

病院の医療相談室

病院の医療相談室では、認知症の方やその家族が直面する悩みや困りごとを専門スタッフに相談できます。認知症の症状や治療に関する疑問や不安、暴言への対応方法など、さまざまな情報を得られます。

地域包括支援センター

地域包括支援センターは、地域の住民やその家族がさまざまな相談や支援を受けるための施設です。認知症に関する相談をしたり、サポートを受けたりできます。また、専門の相談員が病状やケアに関する情報を提供し、必要な支援やサービスの紹介を行います。

町の認知症地域支援推進員

町の認知症地域支援推進員は、市町村に配置されており、認知症施策の推進や地域の認知症の人への医療や介護などの支援ネットワークの構築に取り組んでいます。地域の特徴や課題に合わせた活動を行い、地域の認知症施策の目標である「認知症の本人の姿」と「地域の姿」に近づくことを目指しています。

地域包括支援センターや認知症疾患医療センターなどに配置されているため、必要に応じて相談してみるとよいでしょう。

認知症の方が利用できるサービス

認知症の方の暴言に耐えかねている場合は、介護サービスを利用して介護者の負担を減らすことも必要です。認知症の方が利用できるサービスは主に4種類あります。

・ショートステイ

・認知症デイサービス

・特別養護老人ホーム

・介護老人保健施設(老健)

それぞれ詳しく見ていきましょう。

ショートステイ

ショートステイは、認知症の方が利用できる短期入所生活介護のサービスです。利用期間は短期間で、施設に入所して介護サービスを受けることができます。

食事、リハビリテーション、レクリエーションなどのサービスが提供されています。本人の気分転換になるだけではなく、介護をしている家族の方のリフレッシュや、退院後の生活リズムを整えることにおいても役立ちます。

ただし、認知症の方でショートステイを利用するためには、要支援1・2や要介護1〜5の認定を受ける必要があります。65歳以上の方で要支援認定を受けた場合、最長30日間の利用が可能です。

要支援および要介護の認定の目安は以下の通りです。

要介護度認定の目安
要支援1ほぼ自分の力だけで日常生活を送ることができるが、掃除のような作業は自分だけではできない
要支援2一部、介護が必要。例えば、背中を自分で洗えない、浴槽をまたげないなど。
要介護1立ち上がりや歩行が不安定なため、部分的な介護が必要
要介護2立ち上がりや歩行が自分だけではできないことが多く、排泄や入浴などに介助が必要
要介護3立ち上がりや歩行が自分だけでは困難で、日常生活の多くのシーンで介助が必要
要介護4立ち上がりや歩行が自分だけではほとんどできないうえに、理解力の低下によってコミュニケーションに難がある
要介護5寝たきりのため、日常生活のすべてにおいて介助が必要。また、理解力の低下が進んでおり、意思疎通が困難。

認知症デイサービス

認知症デイサービス(認知症対応型通所介護)は、認知症の方を対象としたデイサービスの一種です。一般的なデイサービスとほとんど同じサービスを提供しています。

送迎や健康チェック(血圧測定など)、食事や入浴の介助、機能訓練、レクリエーションなどの活動を通じて、認知症の方の介護や支援を行います。さらに、認知症の方に合った運動指導や作業療法なども受けることができます。

ただし、認知症デイサービスを利用するためには、要介護1以上の認定を受け、かつ医師から認知症と診断されなければなりません。要支援の方は利用できない点に留意しましょう。

特別養護老人ホーム

特別養護老人ホーム(特養)は、介護保険制度の下で運営される公的な施設であり、終の棲家となる場と24時間の介護サービスを提供することを目的としています。

特養に入所できるのは、一般的には65歳以上で要介護3以上の認定を受けた方です。ただし、特定の疾病を持つ要介護3以上の方であれば、年齢が40歳から64歳でも入所が可能な場合もあります。

認知症の場合は、日常生活への支障や行動上の問題が見られる要介護1〜2であれば、特養の入所対象となります。ただし、場合によっては退所になる点に注意が必要です。

退所のきっかけとしてよく見られるのは、医療的ケアが必要となる体調の悪化です。特養では専門的な医療ケアを提供できないため、入院が必要な場合は退所する必要があります。

また、認知症の悪化や周囲の入所者や職員への暴力行為や迷惑行為がある場合も同様です。

介護老人保健施設(老健)

介護老人保健施設(老健)は、在宅復帰や在宅療養支援を目的とした施設で、主に長期入院をしていた方が退院前のリハビリテーションやケアを受けるために利用します。老健は介護保険が適用される公的な施設であり、入所中には介護や看護のサービスだけでなく、医師のサポートも受けることができます。

認知症の方も入所が可能であり、中には認知症ケアに特化した施設もあります。

老健への入所条件は、原則として65歳以上で要介護1以上の介護認定を受けていることです。ただし、40歳から64歳の若年性認知症によって要介護認定を受けている方も入所できます。

認知症の方の暴言の予防方法

認知症の方の暴言をなるべく減らすには、次のような4つの予防策が必要です。

・安心させるように対応する

・言動や行動を否定しない

・自尊心を傷つける言動をしない

・介護者のケアを大切にする

それぞれ詳細に見ていきましょう。

安心させるように対応する

暴言を口にする認知症の方には、怒りや不安、疑念などの感情があります。まずは穏やかな態度で接し、相手の感情を受け入れることが大切です。怒ったり反論したりせず、優しく声をかけ、安心感を与えましょう。

また、認知症の方は現実との認識のずれや不安によって暴言を口にすることがあるため、相手の気持ちや立場を理解し、共感の気持ちを示すことも重要です。

例えば、「辛い気持ちですね」「心配なことがあるんですね」といったことを伝えましょう。

言動や行動を否定しない

認知症の方の暴言は、現実を理解するのが難しいために生じる場合があります。感情や思考の背後にある意図や認識を尊重し、否定せずに受け入れることが大切です。感情に共感し、理解を示すことで、暴言を未然に防げるかもしれません。

自尊心を傷つける言動をしない

認知症の方は自尊心が傷つきやすい傾向があります。能力や行動に対して否定的な発言や扱いを避け、意思を尊重しつつサポートしてあげる気持ちを持ちましょう。

1人の人間として正しい対応を心がけることで、自尊心が傷つくのを防ぐことができます。

介護者自身のケアも大切にする

介護者自身のストレスや疲労は、介護の質低下を招きます。その結果、認知症の方が不安を感じて暴言を口にする場合もあります。介護者は心身のストレスを軽減するために、適度に休息を取ったり趣味の時間を確保したりしましょう。

周りの家族を頼ったり、デイサービスを利用したりして、気持ちに余裕を持つための時間を確保することが大切です。

認知症による暴言に悩むときは、同じ悩みを持つ人に相談しよう

認知症の方は、脳の機能低下を要因として暴言を口にすることがあります。そのような状況を周りの人が理解できず、叱ったり無視したりといった間違った対応を取ってしまうケースは少なくありません。まずは、本人の気持ちに寄り添って対応しましょう。

また、1人で抱え込むと介護がつらくなり、結果的に認知症の方の暴言も増えることになりかねないため、周りの人に相談することが大切です。

おうち病院 認知症コミュニティ」は、認知症の方の暴言や徘徊などの悩みを持つ人と情報交換したり悩みを共有したりできるコミュニティです。また、専門家による投稿もチェックして、認知症介護の知識を身につけることもできます。この機会にぜひチェックしてみてください。