認知症の方の徘徊対策|適切な対応方法や未然に防ぐ方法を解説

認知症の方が徘徊した場合、交通事故や転倒などの危険があります。センサーの設置やGPSを持たせるなどの対策をするとともに、徘徊が起こりにくい環境を整えることが大切です。本記事では、認知症の方の徘徊対策について詳しく解説します。

目次

認知症が進行すると、症状の1つとして徘徊が始まることがあります。本人が危険な目にあうだけではなく、周りの人にも迷惑がかかることから、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

本記事では、認知症の方の徘徊対策について適切な対応方法やNGな方法などについて詳しく解説します。

認知症による徘徊の特徴

認知症による徘徊は、見当識障害や記憶障害といった機能障害の影響で起こります。本人に目的や目標がないためにあてもなく歩き続けて、予想できないほどに遠くまで行ってしまうケースも少なくありません。

日中と夜間を問わず徘徊が起きるため、介護者や家族にとって大きな負担になるでしょう。また、道路に飛び出したり電車に駆け込み乗車したりして、周囲の人に迷惑をかける場合もあります。

認知症による徘徊の原因・パターン

認知症による徘徊は、認知機能の低下によって起こります。中でも短期記憶の障害が大きな要因です。認知症の方は、自分がいる場所や時間の感覚を正確に認識できなくなり、道に迷ったり迷路状態に陥ったりします。

また、新しい住環境や施設に移ったり、日常生活のルーティンが変わったりすると、不安や混乱が生じ、徘徊が起きる場合もあります。

そのほか、不安や孤独感、ストレスなどの心理的な要因がからむケースも少なくありません。認知症による徘徊はさまざまな要因が重なって生じることから、完全に防ぐことは困難です。

まずは認知症による以下の徘徊のパターンについて確認しましょう。

・道に迷う

・別の家に帰ろうとする

・過去の習慣を再現する

・自分の居場所を探す

・なぜここにいるのか思い出せない

・認知症の症状として同じ行動を繰り返す

上記についてそれぞれ解説します。

道に迷う

記憶障害や見当識障害によって、道に迷うことがあります。記憶障害によるものでは、道順や目印を忘れることで自分がいる場所がわからなくなり道に迷います。

見当識障害によるものでは、正確な方向感覚や空間認識能力を失うことで自分が今いる場所や目的地などがわからなくなり道に迷ってしまいます。これらの問題は屋外だけではなく、普段から利用している施設や自宅でも起きる可能性があります。

別の家に帰ろうとする

自宅にいるにもかかわらず、見当識障害によって自宅の認識ができず、別の家を探して歩き回ります。また、記憶障害によって過去の記憶における認識が復活し、昔住んでいた家や親の家などに帰ろうとする場合もあります。

しかし、街並みが当時と変わっていることから迷ってしまい徘徊とみなされます。

過去の習慣を再現する

記憶障害によって過去の記憶を現在の状況と誤認し、定年退職した会社に出社しようとしたり、小さい子供を幼稚園や保育園へ迎えに行こうとしたりします。過去の習慣は個々で異なるため、症状の現れ方もさまざまです。

例えば、自宅で仕事をしていた人の場合は、外に出るのではなく家の中にあるデスクに向かうこともあるでしょう。ただし、このような症状が現れた場合はいつ外に出てもおかしくはありません。そのため、徘徊は家の中だけのものと思い込まずに対策することが大切です。

自分の居場所を探す

認知症の方は、記憶や認識の障害により、家族や知人の顔や自分との関係性を正確に認識できなくなることがあります。見知らぬ人がいると思い込み、衝動的に家を飛び出してしまいます。これは、自分の居場所を探そうとする行動によるものです。

なぜここにいるのか思い出せない

認知症の方は、短期記憶の障害や情報処理能力の低下により、現在の場所や外出の目的を認識したり思い出したりできなくなることがあります。

外出先でなぜその場所にいるのかを理解できず、混乱や不安を感じて徘徊が始まります。自宅に帰ろうとしたり、知り合いを探そうとしたりなど、混乱や不安を感じたときの行動はさまざまです。

認知症の症状として同じ行動を繰り返す

前頭側頭型認知症では、前頭葉や側頭葉が委縮する影響で同じ行動や言葉を繰り返すことがあります。例えば、特定の場所を目的なく行き来したり、同じ質問を何度も繰り返したりします。

また、レビー小体型認知症では、幻視や幻聴が生じることがあり、不安や恐怖心から逃れようとして同じ行動を繰り返す場合もあります。

認知症の方の行方不明者数

警察庁の資料「令和3年における行方不明者の状況」によると、全行方不明者79,218人のうち、認知症が原因で行方不明になった人は17,636人(22.3%)でした。平成28年ごろから行方不明者数は増加傾向にあります。

なお、行方不明の件数データは届出があったものだけのため、届出がない事案を含むとさらに多くの認知症の方が行方不明になっていると予想されます。

認知症による徘徊の危険性

認知症の方は判断力や記憶力が低下しているため、徘徊中に交通事故にあったり転倒したりする危険性があります。例えば、車道に出てしまう、信号が赤なのに横断歩道を渡ろうとする、階段でつまずくなどのトラブルが考えられます。高齢者の場合、骨折などの怪我が原因で寝たきり状態になることもあるでしょう。

また、徘徊中に帰り道がわからなくなることで遠くまで歩き続けてしまい、疲労や脱水、熱中症などの健康上の危険が生じます。特に夏場の高温時や冬場の低温時には、命に関わる状況に陥る可能性があるため、一刻も早く見つけなければなりません。

認知症の方の徘徊対策(防止策)

認知症の方の徘徊を防ぐためには、単に外出防止グッズを使うだけではなく、本人が徘徊しないような環境を作る必要があります。

以下のような認知症の方の徘徊対策について詳しく見ていきましょう。

・生活習慣を整えるように促す

・適度な運動を習慣づける

・精神的ストレスを和らげる

・居場所を作る

・GPSを携帯させる

・玄関にセンサーを設置する

生活習慣を整えるように促す

生活リズムが乱れていると、徘徊につながりやすくなります。例えば、水分不足や便秘、腰痛などによって夜間に目覚めると、自分でもどうしていいかわからなくなり外に飛び出してしまうことがあります。

このような徘徊を防ぐために、体調や生活習慣を整えることが大切です。起床時間と就寝時間を決めたり、1日3食の規則正しい食事を促したりしましょう。また、快適な寝室の環境を整えることで、不快感によって夜間に目覚めることが少なくなります。

感染症やそのほかの病気によって体調がすぐれない場合は、医師に相談して必要な治療を受けましょう。

また、症状を抑える薬の飲み忘れも結果的に徘徊につながる恐れがあるため、飲み忘れを防ぐための工夫も必要です。健康や生活習慣については、医師や薬剤師など専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

適度な運動を習慣づける

認知症の方を外に連れ出すのが難しいからといって、1日中家から出ない生活を続けると、体力があり余ることで徘徊につながる恐れがあります。日中に散歩や軽い運動をすると、エネルギーを適度に消耗しつつ体力づくりができます。

また、身体や体調に合った筋力トレーニングを取り入れると、運動機能を維持しやすくなるでしょう。運動の強度や時間については個々に合わせる必要があるため、専門家に相談することが大切です。

運動を長期にわたり続けるためには、あらかじめ計画を立てておく必要があります。時間や場所を具体的に決めて、本人と介護者、そのほかの家族なども一緒に取り組むとよいでしょう。

精神的ストレスを和らげる

認知症の方は環境の変化や刺激に敏感です。安心感を与えるために、生活環境をむやみに変えないようにしましょう。引っ越しが必要になったとしても、なるべく間取りやインテリアは変えないことが大切です。

また、認知症の方は予測可能な日常のルーティンに安心感を持つため、同じ時間に食事や入浴、睡眠などができるようにサポートしましょう。

そのほか、コミュニケーションの取り方にも工夫が必要です。例えば、穏やかな声で話しかけ、関心や共感を示すことで、認知症の方のストレスを和らげることができます。また、一緒に過ごす時間や手の触れ合いなど身体的な関わりも大切です。

居場所を作る

認知症の方は、毎日やることがないと自分の居場所はここではないと感じ、徘徊するようになる場合があります。まずは、認知症の方が楽しい日常を送れるように、趣味や活動などを提案してみましょう。

手芸、パズル、ガーデニング、音楽鑑賞など、身体機能が低下していても楽しめるものがおすすめです。また、可能であれば家事や食事の準備、買い物の手伝いなどを任せてください。自分の役割を果たすことで、自分の居場所を認識できるようになるでしょう。

GPSを携帯させる

なるべく徘徊しないようにサポートしても、徘徊のリスクは完全には解消できません。そのため、徘徊したときの危険性をなるべく抑えるとともに、速やかに見つけるための対策が必要です。スマートフォンやGPSデバイスを携帯させて、認知症の方の現在位置を把握できるようにしましょう。

中には、GPSで位置情報を知られることに抵抗を感じる方もおり、本人の気持ちを尊重したいところですが、徘徊による命の危険と引き換えにはできません。

高齢者向けスマートフォンやキーホルダー型のGPSデバイスを利用して、本人が気づかないように位置情報を管理するのも1つの方法です。

玄関にセンサーを設置する

玄関にセンサーを設置することは、認知症の方の徘徊予防に有効な方法です。玄関のドアや周辺に開閉センサーを設置しましょう。センサーがドアの開閉を検知すると、警報や通知を発します。

認知症の方は、センサーの設置に対して抵抗を感じる場合があるため、気づかれない位置に設置しなければなりません。ドア枠や床などに設置するときは、周囲に植木やインテリアを置いてセンサーが見えないようにしましょう。

また、指定した人のスマートフォンに通知が来るように設定すれば、認知症の方に警報や通知を知られることはありません。

認知症の徘徊対策(防止策)でやってはいけないこと

認知症の徘徊を防ぐために、本人の自由を奪ったり脅したりする方もいます。このような行為は介護者や家族との信頼関係が崩れ、介護を拒否されたり徘徊がひどくなったりする恐れがあります。やってはいけない認知症の徘徊対策について詳しく見ていきましょう。

身体的に縛り付ける

身体を拘束すれば、徘徊を一時的に防ぐことはできます。しかし、根本的な解決にはなりません。まずは、本人がなぜ徘徊をするのかを考えて、徘徊が起きる前に対応したり安全を確保したりしましょう。

介護や医療の現場では、身体を拘束するか否かの判断に、次の3つを満たしていることを条件としています。

・本人や周りの人の命や身体が危険にさらされる可能性が高い

・身体の拘束以外に方法がない

・身体の拘束が一時的

徘徊を防ぐために身体を拘束したとしても、拘束をやめると再び徘徊が始まる可能性があります。そのため、一時的な拘束ではなく継続的な拘束が必要になるでしょう。この時点で、徘徊を理由に身体の拘束はすべきではないと判断されることがわかります。

徘徊の原因を突き止めて、生活習慣を整えたり居場所を認識させたりするとともに、センサーやGPSを活用して徘徊の危険性を抑えることが大切です。

徘徊したら罰を与えることを伝える

徘徊したら罰を与えることを伝える行為は、認知症の方を脅しているにほかなりません。また、認知症の方は好きで徘徊しているのではなく、認知症に伴う症状の1つとして徘徊しています。

そのため、罰を与えることを伝えたところで、徘徊を徘徊と認識できないため、問題の解決にはつながらないでしょう。

徘徊をしたら罰を与えるルールを作ると、認知症の方との信頼関係が崩れるとともに本人の尊厳が傷つく恐れがあります。また、ストレスによって認知症の症状が強く現れる可能性も否定できません。

認知症の方が徘徊したときの対応方法

認知症の方が徘徊したときは、なるべく早く発見するために効率的に探す必要があります。また、周囲の人や専門機関とも連携しましょう。

警察庁の資料「令和3年における行方不明者の状況」によると、令和3年中に警察または届出人によって行方不明者の所在が判明したのは78,024人でした(前年以前の行方不明者を含む)。そのうち、死亡していたのは3,613人で、届出当日の判明が 933人、2~7日目が 1,547人です。それ以降は250人程度で推移していることから、行方不明者はなるべく早く見つける必要があるといえるでしょう。

認知症の方が徘徊した際は、以下のような対応方法があります。

・なじみのある場所を探す

・まずは警察に連絡する

・地域包括支援センターに相談する

上記の探し方や連絡先などについて詳しく紹介します。

なじみのある場所を探す

認知症の方が徘徊して訪れる場所はさまざまですが、いつも散歩している公園や親友の家、故郷など、本人にとってなじみが深い場所を訪れる傾向があります。中には、自宅の周りや自宅の押し入れなどで見つかるケースもあるため、周辺をくまなく探しましょう。

まずは警察に連絡する

行方不明になったと判断した際は、すぐに警察に捜索願を出してください。このとき、本人の特徴や服装などとともに写真を提出します。警察を頼ると騒ぎになるのが恥ずかしい、他人に迷惑をかけたくないなどの理由により、なかなか届出ができない方もいます。

しかし、時間が経つにつれて遠くへ行ったり、交通事故や川への転落などで命を落としたりするリスクが高まります。本人のためにも、ネガティブな感情は押し殺してなるべく早く届出ましょう。

地域包括支援センターに相談する

認知症の方が徘徊でいなくなった場合は、地域包括支援センターに相談しましょう。地域包括支援センターは、認知症の方の特性を踏まえて捜索のアドバイスができます。また、場合によっては独自のSOSネットワークを通じて認知症の方の捜索や情報収集が可能です。

ただし、事前登録が必要な場合もあるため、まずは地域を管轄する地域包括支援センターに問い合わせましょう。

徘徊した認知症の方が見つかった後の対応方法

徘徊した認知症の方が見つかったときは、叱ったり罰を与えたりしてはいけません。本人は徘徊したくてしたわけではないうえに、迷惑をかけたことで落ち込んでいる可能性もあります。

次のように適切に対応しましょう。

徘徊した理由を聞く

徘徊をした理由を聞くことで、徘徊を防ぐためのヒントが見つかる可能性があります。例えば、環境の変化、日常生活の変化などが、徘徊の原因になっていることがわかれば、環境を整えたりさらに細かにサポートしたりすることで、徘徊しなくなるかもしれません。

叱らない

認知症の方に対して叱ることは、関係を悪化させるだけでなく、精神的なストレスを増やすことにもつながります。叱られる理由を理解できなかったとしても、叱られた事実は記憶に残るため、家族や介護者との信頼関係が崩れる恐れがあります。

また、徘徊がひどくなったり妄想や異常行動なども現れたりすることもあるため、本人と関係者全員のためにも叱らないようにしましょう。

徘徊が始まりそうな場合の対応方法

認知症の方がそわそわと落ち着かなくなったり外に出かけようとしたりすることは、徘徊が始まる兆候の可能性があります。

徘徊が始まりそうなときは次のように対応しましょう。

付き添って歩く

無理に引き止めず、付き添って歩くことも1つの方法です。徘徊する経路がわかれば、気づかずにいなくなったときにどこを探せばよいか判断しやすくなります。あまりにも遠くまで徘徊する場合は付き添って歩くことは難しいため、家に戻るように促しましょう。

その際は、無理に引っ張って連れて帰るのではなく、理由を聞いたうえで気持ちに寄り添い、優しく対応することが大切です。

気をそらす

認知症の方は記憶障害によって今していたことを忘れる場合があります。例えば、「今から友達の家に行きたい」と言い出したときは「お茶が入ったから飲んでから行きましょう」と伝えれば、友達の家に行きたい気持ちを忘れて徘徊を防げるでしょう。

認知症の徘徊に悩んだときは、同じ悩みを持つ人に相談しよう

認知症の徘徊対策の方法は、認知症の方の性格や徘徊の原因に合わせて選ぶ必要があります。明確な答えがないため、周りの人に相談したいと思う方が多いのではないでしょうか。ネットコミュニティなどを活用し、悩みを共有したり情報交換したりしましょう。

clilaコミュニティ」は、認知症の方について悩みを持つ人と情報交換したり悩みを共有したりするほか、専門家による情報発信を受け取ることができるコミュニティです。この機会にぜひチェックしてみてください。