認知症の人との会話の仕方はどうする?問題が起きる理由や心構えの解説と対応事例を紹介

親や伴侶が認知症になると、日常的に認知症の方と話す機会が増えます。認知症の方はコミュニケーションにさまざまな問題があるため、「話すのが面倒」「急に怒って困っている」「作り話、嘘が多い…」と悩まれるご家族は少なくありません。 「うまく会話するにはどうしたらいい?」「なぜこんなことを話すの?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。 そこで今回は、認知症の方が会話で問題が起きる理由や特徴、認知症の人と会話する上での心構え、実際の対応例などを解説します。

目次

親や伴侶が認知症になると、日常的に認知症の方と話す機会が増えます。認知症の方はコミュニケーションにさまざまな問題があるため、「話すのが面倒」「急に怒って困っている」「作り話、嘘が多い…」と悩まれるご家族は少なくありません。

「うまく会話するにはどうしたらいい?」「なぜこんなことを話すの?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、認知症の方が会話で問題が起きる理由や特徴、認知症の人と会話する上での心構え、実際の対応例などを解説します。

認知症における2つの症状

認知症とは、脳の病気または障害などによって認知機能が低下してしまい、それが原因で日常生活に支障をきたす状態のことです。

認知症の症状にはさまざまありますが、大きく「中核症状」「行動・心理症状」の2つに分類できます。以下で、それぞれどのような症状なのか解説します。

中核症状

中核症状とは何らかの理由で脳細胞が破壊されることが直接的な原因で引き起こされる症状のことです。中核症状には以下のようなものがあります。

  • ・記憶障害:新しいことを覚えられず、物忘れも激しくなる。
  • ・見当識障害:時間や場所の把握や置かれている状況、自分と他人の関係性などの理解が難しくなる。
  • ・理解・判断力の障害:情報処理能力が低下して理解・判断に時間がかかるようになる。
  • ・実行機能障害:順序立てて物事を進めにくくなり、効率が悪くなる。
  • ・言語障害:言葉の理解や気持ちの表現が難しくなる。
  • ・失行・失認:運動機能は問題ないものの動作や物の操作が難しくなる。

このように、脳の機能が低下することでさまざまな障害が発生するようになります。認知症の方との会話における問題は、こうした中核症状によって引き起こされます。

行動・心理症状

行動・心理症状とは、中核症状が本人の性格・周辺環境・人間関係・ストレス・体調などと絡み合って起きる症状や行動上の問題のことです。妄想・幻覚・抑うつ・不眠・意欲の低下・不眠などさまざまな症状があります。

コミュニケーションにおいては、中核症状の記憶障害によりついさっき言ったことを忘れ、それを指摘されたことに対して興奮してしまい、暴言を言ってしまうといった問題が起きることもあります。

認知症の人と会話で問題が起きる理由

そもそも会話とは、記憶や注意力、いつどこにいるのかの見当識などさまざまな脳の働きを必要とします。認知症になるとこういった会話に必要な能力が低下してしまうため、問題が起きやすいのです。

たとえば、理解・判断力が低下すると情報処理能力が低下します。そのため、論理立てて会話するのが困難になります。その結果、会話が堂々巡りになってしまったり、感情的になってしまったりします。

記憶力が低下すれば、今さっき言った自分の言葉を忘れてしまい、急に反対のことを言うこともあります。家族と会話しているのに、本人は誰と会話しているのかわからず、会話が噛み合わないといった問題も起きるかもしれません。

このように認知症の方は脳の能力低下が原因で、さまざまな会話の問題を引き起こす可能性があります。本人には自覚がないことがほとんどであり、接する家族にとっては大きな悩みとなることでしょう。

認知症の人との会話の特徴

認知症の人との会話にはどのような特徴があるのでしょうか。以下で、認知症の人との会話でよくある2つの特徴について事例を交えて解説します。

同じことを繰り返す

認知症の方と会話をすると、同じことを繰り返すことが少なくありません。接する人にとっては「また同じことを言っている…」と思うかもしれません。しかし、認知症の方は言動に対する記憶が無くなることがあり、本人にとっては「初めて」「新鮮」なことなのです。

  • ・事例1

「この前◯◯に行ったんだけど」「昨日◯◯なことがあって」など、同じ内容の会話を繰り返すことがあります。内容そのものは昔のことなのに、まるでついさっきのことのように繰り返すというケースもあります。

  • ・事例2

認知症の方は「そういえば◯◯は買った?」「◯◯はどこに置いた?」と同じ質問を繰り返すことも少なくありません。接する人からすれば、「この前答えたのに…」とストレスを感じてしまうことでしょう。

  • ・事例3

同じことを繰り返すのと似ているものに、特定の言葉を忘れたり言い間違えたりするという問題もあります。たとえば、「昨日観た映画に出ていた俳優の…名前なんだっけ?」と人の名前などの固有名詞を忘れることはよくあるものです。

矛盾がある・話を作ってしまう

認知症の方は会話の中で話を作ってしまったり、矛盾のある内容を話したりすることがあります。これは認知機能が衰えていることが理由で、記憶を失って自分の中で再構築したり、部分的な記憶だけあってつじつまが合わなくなったりします。

  • ・事例

以前に怒られた記憶だけが残ってしまい「◯◯にいつか襲われる」「毒を盛られている」と妄想のような発言をすることは少なくありません。怒られたことは頭に残っているものの、その原因となる自分の行動を忘れてしまい、被害妄想的な発言をしてしまうことがあります。

作話したり矛盾が出たりする場合、多くは昔の記憶が関係します。自分が置かれている今の状況や目の前で起きた出来事が理解できず、そのストレス・不安を昔の記憶で補っているためだと考えられます。実際にあった過去の記憶で補填していることから、話の筋が通っていて作話だと思えないこともあります。

認知症の人と会話をするときの心構え

認知症の人と会話をするとき、相手をあまり刺激しないために以下のような心構えを持ちましょう。

ゆっくりと大きな声で話す

認知症の人に限らず、高齢者と話すときは聞き取りやすいようにゆっくりと大きな声で話しましょう。

認知症でなくても歳をとれば身体は衰え、耳も聞こえにくくなってきます。そのため、会話が聞き取れずに悪気なく無視をする・聞き返すという行動は、高齢者ならばよくあるものです。しかし接する家族にとっては、「認知症で話を理解できなくなったのでは…」と誤解してしまうこともあるかもしれません。

認知症の有無に関わらず、高齢者の方と話す場合は耳元でゆっくり、相手が聞き取れる程度の大きな声で話しかけることを心がけましょう。その上で認知症のために会話が成り立たないようであれば、それに応じた接し方を工夫していきましょう。

目を見て目線を合わせる

認知症の方と話す場合、目を見たり目線を合わせたりすることが大切です。

認知症により脳の機能が低下しているものの、自尊心や羞恥心といった精神的な部分はそれほど以前と変わらないと言われています。そして、不安やストレスを感じやすい傾向にあります。

そのため、たとえばベッドに寝ている高齢者に上から話しかけると「上からなんて失礼だ」と興奮したり「急に怒られたようで怖い」と萎縮したりして、会話そのものができない状態になる可能性があるのです。

そうした問題が起きないように、ベッドに寝ている椅子に座っている高齢者に対して話しかけるときは、同じ目線まで下げるように心がけましょう。

ジェスチャーを交える

認知症の方と会話をするとき、ジェスチャーを交えるとスムーズに進むことがあります。

認知症の方は記憶障害により物忘れしやすくなっています。そのため、話した内容を忘れてしまって会話がギクシャクすることが珍しくありません。言葉という形のないものは、認知症の方にとって覚えにくいことが原因です。

しかし、ジェスチャーならば視覚的に覚えることができ、会話内容を覚えやすくなる可能性があります。また、手をとるなどのボディタッチも効果的な場合があります。身体的な刺激と記憶が結びつくことや、人の温かみを感じながら安心して話ができることで、会話内容を記憶しやすくなりやすいためです。

認知症の方と話すときは、ジェスチャーやボディタッチを交えることもぜひ試してみましょう。

焦らせない・叱らない

認知症の方と話すときは焦らせたり、叱ったりすることを極力しないようにしましょう。

認知症で脳の記憶が低下していても、自尊心は残っています。そのため、会話の中で叱られればストレスや怒りを感じるのです。

そして会話内容は覚えていなくても、「叱られた」という記憶だけは残ってしまいやすく、ストレスを与えた相手に対して嫌悪感や敵意のようなものを持つようになります。それは結果的に、会話拒否や暴言・暴力などの問題行動につながる恐れがあります。

また、認知症の方は情報処理能力や行動能力が低下しています。そのため、自分では頑張って処理していても、周囲から見るとモタモタしているように見えることは少なくありません。

そこで「早くして」と急かしてしまうと、焦ってしまって余計に時間がかかってしまうことでしょう。そして「急かされた」というストレスだけが記憶に残り、叱られたときと同じように会話拒否につながる可能性があります。

認知症の人と会話するときの対応例

認知症の人と会話をするとき、どのようなことに気をつけ、どのように接すればいいのでしょうか。実際の対応例を紹介します。

※会話事例では、認知症の方を「認」相手方を「相」と表記します。

「財布を盗られた」と言っているケース

認知症になると記憶障害により物忘れしやすくなったり、心理症状により被害妄想をしやすくなったりします。そのため、実際には起きていない犯罪に自分が巻き込まれたという妄想の会話をすることがあります。

  • ・対応事例

認「ここにあった財布知らない?」

相「わからないけど、どうしたの?」

認「ここに置いたのに無くなった。誰かに盗られたかもしれない」

相「…」

物を無くした、またはどこにしまったか忘れただけなのに、被害妄想により「盗られた」と作話してしまうことは少なくありません。「誰も盗ってないよ」「どこかにしまったんじゃない?」という答えは認知症の方には理解しにくいものです。

むしろ疑念や怒りの気持ちを増幅させてしまい、余計に話がこじれるかもしれません。このようなときは「そうなんだ、じゃあ一緒に探そう・取り返そう」といったように答えてみてください。そして、一緒に探してあげましょう。

ただ、このとき注意したいのは、ご家族が見つけて手渡してしまうと「お前が隠した・盗った」と認知症の方が誤解する恐れがあることです。そのため、なるべく本人の手で発見できるように誘導してあげましょう。

「あなたは誰?」と息子・娘がわからないケース

家族のことを認識できず、他人だと思ってしまうことは認知症でよくあるケースです。人物誤認の症状が出ると、家族としての会話が難しくなるため、ご家族にとってはつらいことでしょう。こうしたときは以下のような対応をしてみてください。

  • ・対応事例1

認「あれ…◯◯ちゃん(認知症の方の幼馴染)どうしたの?」

認知症の方の恩師や幼馴染など、過去に関係の深かった方と誤認されることはよくあります。こうしたときはできる限りその人物になりきりましょう。

相「◯◯さんに会いに来たんだよ」

認「そうなんだ、一緒にお話しようよ」

もちろん、ご家族の人からすれば、誤認された人のことはわかりませんので、会話内容は世間話などでかまいません。そのうちその人物として親しくなれば、より深い話をできるようになってきます。

  • ・対応事例2

認「あなたは誰?なぜ人の家に入ってきている?」

と、全く知らない他人に誤認されることもあります。こうなると興奮したり怯えて逃げ出したりすることがあって危険です。このようなケースでは、なるべく刺激をせずに目の前から去って、気持ちが落ち着くのを待ちましょう。

さっき食べたのに「ご飯まだ?」というケース

認知症の方の食事に関する問題はよくあることではないでしょうか。

  • ・対応事例

認「ご飯はまだ?」

認知症の食事問題で、これはよくあるケースです。こうした質問に対して「さっき食べたでしょ?」と返して納得してくれることもあれば、「食べていない」と怒り出すこともあります。このようなときは以下のように対応してみましょう。

相「ごめんね、今用意してくるね」

認「わかった、ありがとう」

用意すると伝えれば、認知症の方は自分の主張が通ったことで納得してくれます。満足すると時間が経過とともに食事を欲しがっていたことをそのまま忘れてくれることがよくあります。

相「今日は美味しい果物ね。身体にいいからどうぞ」

認「ありがとう、美味しそうだね」

食事のことを忘れないようであれば、軽いデザートやフルーツを出してみるのもよいでしょう。不満そうであれば「お医者さんが身体にいいって勧めていたんだよ」と伝えると納得しやすいかもしれません。

退職したのに「仕事に行く」というケース

数年前に定年退職したのに、ある日急に仕事にでかけようとする認知症の方もいます。このような場合はどう対応すればいいのでしょうか。

  • ・対応事例

認「それじゃ、会社に行ってくるよ」

仕事を頑張っていた過去の記憶や習慣が残っていて、ある日突然思い立ったように行動にうつすことは少なくありません。実際にスーツに着替えて出勤して、会社から連絡がくることもあります。

こういった場合、「もう定年退職したよ」「何歳だと思っているの?」と否定するのはよくありません。認知症の方にとっては「まだ現役」という思いがありますし、行動を否定される、年齢のことを言われることにプライドが傷つくためです。

このようなケースでは以下のような対応をしてみましょう。

相「自分も用事があるから一緒に行くね」

認「わかった、一緒に行こう」

数分~数十分後に様子を見ながら

相「そろそろ家に帰ろうか」「そういえば今日、会社は休日だよ」

このように行動を否定するのではなく、肯定しつつも誘導するという方向に持っていってみてください。

相「今日はリモートワークだったでしょ?」

のように、自宅で作業をするように誘導するのもよいかもしれません。

認知症の家族の悩みや対策を共有し合えるコミュニティ「clila」

認知症との会話はギクシャクしてしまいがちです。これは認知症により脳の機能が低下することで、会話に必要な記憶力・注意力・情報処理能力・見当識などが失われてしまうことが原因です。認知症の方は同じことを繰り返したり、妄想や作話したりすることが多く、ご家族にとっては疲弊してしまうことでしょう。

認知症の方と会話をするときは、そうしたコミュニケーションに関する問題があることを理解し、大きな声で話しかけたりジェスチャーを交えたりといった工夫をしてみてください。また、紹介した対応事例を参考に、相手を否定せずにうまく誘導することを心がけてみましょう。「認知症の方と会話における悩みを共有したい」「会話の問題を解決する対策を知りたい」という方は、一人で思い悩まずにぜひ「clila」をご利用ください。「clila」は、認知症を始め、さまざまな疾患を持つ方やそのご家族が集まるコミュニティです。同じ境遇の人が集まって、悩みを分かち合ったり対応策の共有をしたりできます。専門家による投稿もありますので、新たな気づきも得られます。

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