認知症になるとどんな問題行動を起こす?問題行動の事例や解決策について解説

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高齢化社会を迎えた日本では、認知症を発症する高齢者も増加傾向にあります。認知症になると脳の機能が低下することで、さまざまな問題が生じます。ときには、本人や家族だけではおさまらない、社会的な問題行動を取ってしまうこともあるでしょう。

「問題行動にはどんなものがある?」「問題行動に対する対処法を知りたい」と考えている方は多いのではないでしょうか。

そこで今回は、認知症の問題行動の事例、認知症の問題行動への対応事例について解説します。

認知症の症状

認知症は脳の病気で、誰でも発症する可能性があるものです。複数の原因によって脳の細胞が壊れるまたは働きが悪くなると、さまざまな障害が起きます。認知症とは、その障害により6ヶ月以上を目安に日常生活で支障をきたす状態が継続することを言います。

認知症は一般的に65歳以上から発症率が高まるとされ、85歳以上になるとより多くの人が発症します。65歳未満の人が発症した場合は若年性認知症と言います。

認知症の症状にはさまざまありますが、大きく分けて2つの症状があります。以下で、認知症における中核症状と周辺症状について解説します。

中核症状

脳の細胞が壊れるまたは働きが悪くなることが直接的な原因となり起こる認知症の症状を「中核症状」と言います。

中核症状には、物事を覚えられない記憶障害、時間や場所の感覚がわからなくなる見当識障害、理解や考える時間がかかる理解・判断力の低下、マルチタスクが困難になる実行機能障害などがあります。

行動・心理症状

行動・心理症状とは、中核症状やその他の要因が絡み合い、精神や行動上の問題が起きる認知症の症状を「行動・心理症状」と言います。中核症状以外の要因としては、本人の元々の性格や置かれている環境、人間関係といったものです。

たとえば、家がどこかわからなくなり迷子になる、やる気を失って抑うつ状態になる、すぐにイライラしてしまって大声を張り上げる、トイレなど日常の行動がうまくできないといったことが起きます。

認知症における問題行動とは

問題行動とは、一般的な社会の常識やマナー・モラルに反するような、大多数の方にとって好ましくない行動を指します。たとえば、電車の中で突然大声を出す、他人に危害を加えるといったものです。若い人がこうした問題行動を行う場合は、その背景に周囲や社会への反発などがあり、自発的に行うことがほとんどでしょう。

一方で、認知症を発症している高齢者が起こす問題行動とは、夜間の徘徊やトイレの失敗、急に大声を出したり暴れたりするといったものがあります。これらは自発的に行っているというよりは、認知症の中核症状や行動・心理症状が影響しています。

たとえば、「認知症の高齢者に声をかけられ急に怒鳴られた」という問題行動は、ご家族からすると理由もわからず不安を感じることでしょう。しかし、高齢者本人からすると認知症の影響により「急に話しかけられる=攻撃されているように感じる」という背景があります。つまり、本人は怒鳴りたいのではなく、認知力に問題があって怒鳴らざるを得ないのです。

そのため、若者の場合と違って、高齢者の問題行動は自発的というよりは認知症により本人は無自覚・当たり前の行動として起こしているのです。

認知症の問題行動の例

認知症になるとどのような問題行動を起こしてしまうのでしょうか。以下で、認知症の問題行動のさまざまな事例を紹介します。

暴言を言う・暴力を振るう

脳が健康な若い人であれば、怒り・ストレスを抑えられます。しかし、認知症の高齢者は脳の機能が低下し、それらを抑えられず暴言を言ったり暴力を振るったりしてしまうことがあります。

  • ・暴言・暴力の事例1

家族が軽く冗談を言っただけなのに「何でそんなことを言うんだ」と怒鳴ったり、突然ものを投げつけたりする問題行動を起こすこともあります。これは、認知力が低下していて冗談を冗談として受け取れないことが原因です。

  • ・暴言・暴力の事例2

認知症の方は、過去の嫌な経験を思い出して急に暴言を言うこともあります。場合によっては数年前の出来事なのについさっきのことのように思い出して暴言・暴力を引き起こすこともあります。

このように、認知症の方は認知力の低下や不安・ストレスなどがトリガーとなり、突然暴れるなどの問題行動を起こすことがあります。

多動(動き回っている)

認知症の方は、ずっと部屋の中を動き回る、徘徊するなどの問題行動を起こすことがあります。動き回ってしまう原因や理由はさまざまです。

  • ・多動の事例1

認知症の方は不安や緊張があってもそれをうまく言葉にできないことがあります。それを発散するために、唐突に頭を強く掻きむしったり、貧乏ゆすりをしたりすることがあるのです。

  • ・多動の事例2

ちょっとした言い争いや意見の食い違いに怒りが込み上げ家を飛び出してしまい、近所を歩き回っているうちに道に迷い、そのまま行方不明になるというケースも少なくありません。

  • ・多動の事例3

仏壇の棚を開けたり閉めたりを何度もするといった、行動を繰り返すケースもあります。こうした場合は、記憶障害により何をしたかったのか忘れてしまう、直前の行動を忘れるといったことが原因かもしれません。

介護や服薬を拒否する

認知症の方は介護や服薬を拒否してしまうという問題行動を起こすこともあります。これは、認知力が低下している自分のことを客観的に見られないことが原因の一つと考えられます。

  • ・介護・服薬拒否の事例1

介護のためにトイレ補助をしていたら、「なぜトイレを覗くのか」と怒られたり「自分一人でできる」と介護を拒否されたりすることがあります。これは、介護が必要なほど身体能力の衰えていることを客観的に理解できていないためです。

  • ・介護・服薬拒否の事例2

持病の症状を抑えるために薬を飲ませようとすると「飲みたくない」と強く拒否することがあります。服薬の拒否にはさまざまな理由が考えられます。たとえば「苦い薬は身体に悪いものと思い込んでしまう」「薬が必要な自分を認めたくない」「無理に飲まされることへの拒否反応」などです。

性的な異常行為がある

家族や介護者に対して、セクハラ発言や行為といった性的な問題行動を起こすことも少なくありません。

  • ・性的な異常行為の事例1

認知症の高齢者が介護士の女性のお尻や胸を触ったり「彼氏とはどういうことをするの?」とセクハラ発言をしたりする事例は数多くあります。性欲や性的興味があることは決しておかしなことではありません。しかし認知症の方はそうした欲求や興味を抑えられず、問題行動として出てしまうことがあります。

  • ・性的な異常行為の事例2

散歩中に突然、服を脱ぎだしたり性器を露出したりしてしまうこともあります。これは性的欲求だけでなく、「自分がどこにいるか理解できない」「家にいると思っている」といった認知力の低下も関係している可能性があります。

排泄を失敗してしまう

認知症の方に多い問題行動として、排泄の失敗があります。さまざまな要因がありますが、実行機能障害や見当識障害などが原因となることが少なくありません。

  • ・排泄失敗事例1

「家でトイレに間に合わずに粗相をしてしまう」「尿や便が便器から外れてしまう」といったことは認知症の方でよくある事例です。見当識障害により自分の住む家なのにトイレの場所がわからない、実行機能障害により所定の場所に排泄できないといったことが原因です。

  • ・排泄失敗事例2

外出中に突然漏らしてしまうケースも実は意外と多くあります。「環境の変化にストレスや不安を感じる」「トイレに行きたいと伝えることに強い羞恥心を感じる」など、原因はさまざまです。

  • ・排泄失敗事例3

散歩中に道端または物陰に隠れて排泄をするという問題行動を起こすこともあります。明確に失敗とは言えないかもしれませんが、トイレに入って排泄できなかったというケースです。

「トイレを我慢できなかった」「トイレの場所がわからなかった」という仕方ないような理由だけでなく、「道端でしたくなったから」のように欲求を抑えられずこのような問題行動を起こす場合もあります。

食事に関するトラブルも

認知症により食事に関するトラブルが起きることもあります。

  • ・食事のトラブル事例1

認知症の方でよくあるのが「食べたことを忘れる」ことです。お昼を食べたばかりなのに「お昼はまだ?」と聞くだけでなく、「ご飯を出さないなんてひどい」と怒鳴りつけてくることもあります。脳の機能が低下し、物忘れしてしまうことが大きな要因です。

  • ・食事のトラブル事例2

食事に関連する理解・認識が薄れることもあります。たとえばご飯を指さして「この白いものは何?」と聞いてきたり、箸やフォークなどを見て「これも食べられる?」と聞いたりすることがあります。記憶障害や理解・判断力の低下などが要因となります。

  • ・食事のトラブル事例3

介護や服薬のように食事を拒否することも少なくありません。いつも通りのお味噌汁でも「こんな味の濃いものは飲めない」と怒鳴ったり、「毒を混ぜているのだろう」と疑ったりして食事をしないのです。これは認知症の周辺症状のうちの妄想や幻覚などが要因として考えられます。

認知症の問題行動への対応

認知症の方が起こす問題行動に対して、家族はどのように対応すればいいのでしょうか。以下で、問題行動に対する対処法や解決のための考え方について解説します。

否定しないようにする

認知症の方の言うことをなるべく否定しないことは大切です。認知症により脳の機能が低下しているものの、羞恥心や自尊心などの精神的な部分はそれほど大きく変わりません。

むしろ、認知症の人ほど敏感であり、否定されると強く傷つけられた気持ちになって暴言・暴力などの問題行動を起こす可能性が高まります。

  • ・対応事例

トイレのサポートをしていたら「トイレを覗くな」と強く言われた場合、「でも一人じゃ難しいでしょ」と言わず、「それじゃあ何かあったら呼んでね」とトイレから出ていき、目をそらしてみましょう。

認知症の方にとって、言動を受け入れられたことは自己肯定感に繋がり、問題行動を起こしにくくなります。

できる限り心に寄り添う

認知症の方の心にできる限り寄り添う姿勢も大切です。認知症の方は決して「誰かを傷つけよう」「周囲に迷惑をかけてやろう」といった気持ちで問題行動を起こしているわけではありません。

問題行動には認知症の影響による何らかの理由があります。それに寄り添い、汲み取ることはとても大切です。

  • ・対応事例

夜間に不安そうにウロウロしている老人がいる場合、認知症の見当識障害が原因で迷子になっている可能性があります。本人は自分がどこにいるかもわからず、強いストレス・不安を抱えた状態です。「知らない人だし…」と無視するのではなく、「何か助けになることはできますか?」と声をかけてあげてください。

また、人によっては自尊心・羞恥心が強く「大丈夫です・何でもないです」とサポートを断ることもあるでしょう。そうした場合は無理に助けるのではなく、警察等へ連絡して保護を要請するのも一つの手段です。

なるべく環境を変化させない

環境の変化は認知症の方にとって大きなストレスや不安の原因となります。精神的に追い込まれることで、問題行動が深刻化することも少なくありません。できる限り環境は変化させないように心がけましょう。

  • ・対応事例

在宅介護をするために認知症の親と同居することになった場合、同居のために親を呼び寄せるまたは親のもとに引っ越すなどします。そのため環境はどうしても変化してしまうものです。

少しでもその変化を抑えるためには、環境変化による不安をケアする対策が大切です。たとえば、親の部屋を長年住み慣れた状態に整える、親世代の名曲を流す、昔のDVDを集めてあげるなどを試してみてください。

接し方を工夫する

認知症の方は脳の機能が低下しているため、これまでと同じ接し方をしてしまうと問題行動を引き起こす可能性があります。問題行動をなるべく起こさせないようにするためには、認知症の方に対する接し方を工夫することも大切です。

  • ・対応事例

認知症は個人差がありますが、あるときを境に急に症状が出始めることがあります。「怒鳴る・怒りやすい」「名前を思い出せない・家族を他人と認識する」といった症状があるとご家族も不安になることでしょう。

しかし、そこで対応に困惑したり焦ったりすると、それが相手にも伝わって不安・ストレスを与えたり、余計に問題行動を助長させたりすることは少なくありません。最初のうちは難しいかもしれませんが、「なるべく笑顔で接する」「わかりやすく伝える」「否定しない」など接し方を工夫してみましょう。

急がせずたり焦らせたりしない

認知症の方への対応で大切なこと、それは驚かせない・急がせないことです。

  • ・対応事例1

たとえば、認知症の方に声をかけるときは、相手の視界に入っていることを必ず確認しましょう。後ろから話しかけると「襲われるかもしれない」「攻撃を受けた」と誤解されることがあります。その結果、暴力などの問題行動を引き起こす可能性があります。

  • ・対応事例2

声をかけるときはなるべく少数、できれば一人で行うとよいでしょう。複数人で話しかけてしまうと「逃げられない」「集団の通り魔かもしれない」と思われることがあるためです。一人だけの声かけが不安な場合は、後ろで誰かに待機してもらうなど工夫をしてみてください。

認知症の家族の悩みや対策を共有し合えるコミュニティ「clila」

認知症の方と接することは、ご家族にとってさまざまな苦労があるものです。個人差はありますが、人によっては暴言や暴力、性的異常行動など対処が難しい問題行動を引き起こすこともあります。そういった大きなトラブルがなかったとしても、認知症の方でありがちな「食事はまだ?」のようなちょっとした問題も、ご家族にとってはストレスになるものです。

しかし、認知症の方は決して問題行動を起こしたくて起こしているわけではありません。認知症の影響により、本人も自分をうまくコントロールできていないのです。認知症の方となるべく気持ちよく過ごせるように、できる限り心に寄り添い接し方を工夫するなどの対応をしてみてください。

認知症の方と暮らすご家族には、本記事で紹介したような問題行動で悩む方が多いことでしょう。そうした気持ちを共有したい、対策を知りたいとお考えでしたら、疾患別コミュニティ「clila」のご利用をおすすめします。

「clila」は認知症を始め、さまざまな疾患で悩む方のためのコミュニティです。認知症の方と暮らすご家族・関係者と繋がることができ、介護の辛さに寄り添ったり、同じ環境にいる方々がどのような対処法を取っているか情報交換できたりします。専門家による投稿もありますので、問題解決の糸口を見つけられるかもしれません。

認知症のご家族のことでお悩みなら、ぜひ「clila」をご活用ください。