認知症の家族の介護に限界を感じたらどうすべき?対処法について解説

認知症になると、脳に機能障害が生じることで暴力・暴言がひどくなったり、介護を拒否したりすることがあります。このような状況で認知症家族の介護をすることに限界を感じた場合は、早めに周りの人に相談することが大切です。本記事では、認知症家族の介護に限界を感じたときの対処法について紹介します。

目次

認知症家族の介護に限界を感じ、どうすればよいかわからず悩んでいる方は多いのではないでしょうか。まずは、周りの人を頼るとともに、同じ悩みを持つ人に相談したり外部サービスを利用したりしましょう。

本記事では、認知症家族の介護に限界を感じたときの対処法について詳しく解説します。

認知症家族の介護はいつまで続く?

認知症家族の介護によって生活に支障をきたしていたり、心身に大きな負担を感じていたりする場合は、いつまで介護が続くのか不安ではないでしょうか。認知症家族の介護期間については見通すことが難しく、一概には言えません。

一般的には、認知症の人の介護期間は6~7年とされていますが、10年以上続く場合もあります。認知症は寿命を迎える直前ではなく、数年から10年以上前に発症することもあるため、長期にわたることが少なくありません。

このような事実を踏まえ、1人ですべての負担を抱え込まないようにすることが大切です。短期間であれば1人でも介護できる可能性もありますが、長年にわたると心身の疲労が蓄積して体調を崩してしまうリスクが高まります。

認知症の家族の介護に限界を感じるケース

認知症の症状が悪化してきて、介護に限界を感じるきっかけとなる出来事が起きることがあります。

この記事を読んでいる方はすでに介護に限界を感じているかもしれませんが、他の方がどのようなことが原因で認知症介護に限界を感じることが多いのか詳しく見ていきましょう。

暴力・暴言がひどい

認知症の人が介護者を叩いたり蹴ったりする、侮辱的な言葉を投げかける、物を投げつけるなどの行為があると、介護に限界を感じる方は多いのではないでしょうか。次第にエスカレートして命の危険を感じることもあるかもしれません。

我慢したとしても、暴力・暴言のある人を介護したいと思えず、十分な介助やケアができないこともあるでしょう。

介護を拒否される

認知症の人が身の回りのケアや入浴、服薬などを拒む場合、介護に限界を感じることがあります。非協力的な姿勢だと介護者の負担が増大し、早期に限界を感じるでしょう。

また、「あなたのために自分を犠牲にしているのに、なぜ協力してくれないのか」と不満が溜まり、大きなストレスを感じるようになります。

夜間の徘徊がある

認知症の人が夜中に家を出て外に出歩いたり、目的のない徘徊をしたりする場合、介護に限界を感じる方が多いでしょう。徘徊があると、夜間に探しに行ったり警察のお世話になったりすることがあります。

また、徘徊を防ぐための対策を講じたり、常に所在を気にかけたりすることにもなり、心身の負担が増大します。

退職しなければ介護ができない

介護は心身に大きな負担がかかるため、介護者が自身の仕事を続けることが難しくなる場合があります。日中も介護が必要になれば、必然的に退職を余儀なくされるでしょう。認知症家族のために自身の人生を犠牲にすることに対して納得できず、介護に限界を感じる方も少なくありません。

また、収入が著しく減少することから退職して介護を続けることを選択できない場合もあります。介護を理由に退職した場合に、国から補助金を受け取れるといった制度はないため、経済的に困難な状況に陥る方が多いでしょう。

限界を感じても介護を続けると「介護うつ」になることも

限界を感じている状況で介護を無理に続けると、介護うつになる恐れがあります。症状や介護うつになりやすい人の特徴について詳しく見ていきましょう。

症状

介護うつという名称は、介護が原因で発症するうつ病のことであり、一般的なうつ病と症状は同じです。次のような症状が現れます。

・食欲の低下

・不眠

・意欲や関心の欠如

・疲労感

介護で身体が疲れているはずなのに眠れない、夜間に何度も目覚めるといった場合は、介護うつの可能性を考慮しなければなりません。また、ストレス発散のために見ていたテレビを見る気がなくなったり、趣味を楽しめなくなったりした場合も介護うつに注意が必要です。

中には、肩こりや頭痛といった身体的な症状が現れ、介護により大きな負担を感じるようになる方もいます。

介護うつになりやすい人の特徴

介護うつになる前に対処できる方もいれば、無理に介護を続けて介護うつになってしまう方もいます。完璧主義な人は介護に手を抜くことができないうえに、何らかのトラブルが起きた際に大きな責任を感じて落ち込むことがあります。

また、責任感が強いために周りの人を頼ることができず、抱え込んでしまいがちです。

そのほか、認知症の方が怒ったときに大きなストレスを感じるなど、人の気持ちの変化に敏感な介護うつになりやすいでしょう。

認知症の家族を介護する方のケアも必要

認知症家族を介護する人は、心身やストレスを抱えている場合があります。そのため、介護者自身のケアも重要です。次の2つのポイントを押さえて心身をケアしましょう。

・イライラした気持ちは抑え込まない

・周りの人に頼る

それぞれのポイントについて見ていきます。

イライラした気持ちは抑え込まない

介護でイライラしたとき、「このままではいけない」、「気持ちを静めないと」などと自分の気持ちを押し殺す方もいます。

イライラしてはいけないと自分に言い聞かせているうちは、周りの人に頼ったり認知症カフェを利用したりする発想が思い浮かばないでしょう。1人でなんとかしようとした結果、介護も十分に行えず心身の調子を崩してしまう恐れもあります。

まずは、イライラする自分に正直になることが大切です。

周りの人に頼る

自分以外の家族や親族に相談して、少しでも介護の負担を減らしましょう。実際の負担が大きく減るわけではないにしても、1人で介護をしているとの認識がなくなれば、精神的に少しは楽になるはずです。

また、認知症疾患医療センターや市区町村の保健所、保健センターなどで認知症について相談するのも1つの方法です。

認知症の家族との接し方

認知症の家族に対しては、ついイライラしてしまいがちです。イライラしたからといって強く当たると強い不安を与えてしまうでしょう。認知症の家族とは次のように接することが大切です。

家族が不安を感じていそうなときこそ優しく接する

家族が不安を感じている場合は、優しく接することが重要です。認知症の方は、相手の感情を理解する「情動調律」という能力はそれほど衰えていないといわれています。そのため、不安を感じているときに介護者から強く当たられると、ますます不安になる恐れがあります。

反対に介護者が優しく接すると、その感情が伝わることで精神状態が穏やかになりやすいでしょう。穏やかな声で話しかけたり、優しい表情をしたりして、安心感を与えることを心がけてみてください。

まずは行動や言動の原因を探る

認知症の方は、妄想によって非現実的な考えや認識を持つことがあるため、介護者が異常に感じる行動を取る場合があります。しかし、その行動は本人にとっては現実に基づいたものです。

介護者は、その言動や行動を否定するのではなく、まずは受け止めることが大切です。そのうえで、なぜそのような妄想を持つようになったのか原因を探りましょう。

例えば、会社員が出ているテレビCMを見て、会社に行かないといけないと感じ、あわてて支度をしようとする場合があります。このとき、「もう退職しているんだから会社に行く必要はないよ!」と伝えてはいけません。本人は、責任感によって会社に行こうとしています。そのため、「今日は休日だから会社に行かなくていいんだよ」と伝えましょう。

このように、本人の行動や言動の原因や心理を理解したうえで、話を合わせてあげると円滑なコミュニケーションにつながります。

本人ができることを介護者が行わない

認知症の進行を遅らせるために、本人ができる動作はなるべく本人が行うように促しましょう。

介護者は、本人が1人でできることに対しても、「手伝わなくてはいけない」という考えに陥ることがあります。しかし、介護者は本人ができることをサポートしながら見守ることが大切です。

また、認知症の人が特定の行動を取る理由や意図を把握することで、適切なサポートを行えるようになります。例えば、食事を摂る際に必ず汁物から口にする場合、それが本人の安心感につながっている可能性があります。

このような好みや習慣を尊重しつつ、必要なサポートを行うことが大切です。

【負担を減らす方法】認知症コミュニティを利用しよう

認知症家族の介護の精神的な負担を減らすために、認知症コミュニティを利用することをおすすめします。認知症コミュニティには、次の2つがあります。

認知症カフェ

認知症カフェは、認知症の症状に悩む人やその家族が気軽に訪れて、同じ悩みを持つ人とコミュニケーションを取ることができる場です。悩みを伝えたり解決策を共有したりすることで、認知症家族の介護の負担を軽減したり、介護者のストレスを和らげたりすることを目的としています。

ネットコミュニティ

認知症カフェが自宅の近くにない場合や、参加する時間を確保できない場合はネットコミュニティに参加するのも1つの方法です。認知症家族の介護に悩む人が集うコミュニティに参加して、認知症カフェと同じく悩みを共有したり解決策を教え合ったりします。

インターネットとスマートフォンがあれば時間と場所を問わずコミュニケーションを取ることができるため、介護で時間的余裕のない方も利用しやすいでしょう。

自宅での介護で利用できるサービス

介護による心身の負担を和らげるために、外部サービスを積極的に利用することが大切です。認知症家族の介護においては、次のサービスを利用できる可能性があります。

デイサービス

デイサービスは、要介護1以上の方が通所し、食事や入浴、レクリエーションなどのサービスを受けることができる施設です。

介護者は自分の時間を一時的に確保し、休息したり他の用事をこなしたりできます。また、デイサービスでは他の利用者との交流ができるため、認知症の症状を遅らせることにつながります。

訪問介護

訪問介護は、専門の介護スタッフが定期的に自宅を訪問し、必要なケアや支援を提供するサービスです。

利用者の状態やニーズに合わせて、個別のケアプランが作成されます。介護スタッフは利用者の健康状態や介護要求に応じて適切な支援を提供するほか、医療機器の使用や薬の管理などもサポートします。

ショートステイ

ショートステイは、自宅での介護を受けている方が一時的に施設に入所し、必要なケアや支援を受けるサービスです。介護者は一定期間の休息や他の用事をこなす時間を確保できるため、心身の負担が軽減します。

また、利用者は新たな出会いや交流を通じて社会的なつながりを持てるため、認知症の進行が遅くなることが期待できます。

訪問看護

訪問看護は、専門の看護師が定期的に自宅を訪問し、必要な医療ケアや健康管理を提供するサービスです。看護師は利用者の健康状態をモニタリングし、傷の処置、薬の管理、点滴や注射の実施など、専門的な医療ケアを提供します。

また、認知症の病状や心身の健康管理に関する相談も可能です。定期的な訪問により、病状の変化や健康上のリスクを早期に把握し、適切な対応やアドバイスを提供します。

訪問リハビリステーション

訪問リハビリステーションは、専門のリハビリテーションスタッフが自宅に訪問し、必要なリハビリを行うサービスです。運動療法、言語療法、作業療法など、本人が必要とするリハビリを自宅から1歩も出ずに受けることができます。また、日常生活での支援方法についても相談が可能です。

訪問入浴

訪問入浴は、介護スタッフが自宅を訪問し、入浴支援を提供するサービスです。また、バスルームの安全性や転倒リスクなどについて評価し、適切な環境を整えるためのアドバイスを行います。

入浴は、身体的なケアだけではなく、リラクゼーション効果によるストレスの軽減にもつながります。

施設に入所して利用するサービス

認知症家族の介護が困難な場合は、施設に入所させることも検討しましょう。施設に入所して利用するサービスを3つ紹介します。

特別養護老人ホーム

特別養護老人ホーム(特養)は、日常的な介護を必要とする高齢者に対して、介護や生活援助のサービスを提供する施設です。「終の棲家」となる生活の場として設けられているため、24時間体制で介護サービスを受けることができます。

入所条件のうち、要介護度の条件は要介護度3以上ですが、認知症によって日常生活に支障をきたす症状や行動が見られる場合は要介護度1~2でも要介護度の要件をクリアできる場合があります。

介護老人保健施設

介護老人保健施設は、高齢者や要介護者が医療やリハビリテーション、介護サービスを受ける施設です。医師や看護師が常駐し、入所者の健康管理や病状のモニタリングを行います。必要に応じて医療処置や薬剤管理を行い、入所者の安全と健康を確保します。

また、専門のリハビリテーションスタッフが運動療法、作業療法、言語療法といったリハビリテーションを行います。

グループホーム

グループホームは、認知症のある方が共同生活を行いながら、生活支援やケアを受ける施設です。認知症の方は、新しい人や物事を認識したり覚えたりするのが難しいと言われています。

一般的な大人数の施設では入居者や職員が頻繁に変わるため、気持ちがなかなか落ち着かないこともあるでしょう。グループホームでは1ユニットに9人程度と小規模な環境で共同生活をするため、リラックスして過ごすことができます。

また、グループホームは地域との交流も重視されているため、社会的なつながりを実感しやすいとされています。グループホームは、認知症の診断を受けており、要支援2以上の人が利用できます。

介護に限界を感じたら同じ悩みを持つ人に相談しよう

認知症家族の介護に限界を感じたときは、なるべく早く周りの人を頼ったり外部サービスを利用したりすることが大切です。介護者自身のケアも大切にして、なるべく無理のない形で介護しましょう。

また、介護は閉鎖的な環境で行われることから、孤独感を覚えがちです。認知症カフェやネットコミュニティで同じ悩みを持つ人とコミュニケーションを取るだけでも、精神的なストレスが緩和されるはずです。

「clilaコミュニティ」は、同じ悩みを持つ人と情報交換したり悩みを共有したりできるネットコミュニティです。また、専門家による投稿も閲覧できるため、認知症家族の介護に関するヒントを得られることもあります。

時間と場所を問わず、都合がよいときに利用できるclilaコミュニティについて、この機会にぜひチェックしてください。