目次
多汗症とは
多汗症とは、体温調節に必要な量以上に汗をかき、日常生活に支障をきたしてしまう病気のことです。
人間は恒温動物であり、身体は周りの環境に左右されることなく常に体温を一定に保つように、汗をかきます。暑い夏の日や運動によって身体を動かすとき、食事をしてエネルギーに変えるとき、身体は熱を持ちます。そのようなとき、人間の身体は全身の皮膚表面に分布するエクリン汗腺から汗を分泌させ、気化熱によって身体の熱を奪うことで体温を適正に保っているのです。
しかし、必要以上に汗をかいてしまって、日常生活に支障をきたす「多汗症」という病気に悩まされる人もいます。多汗症には全身に大量の汗をかく「全身性多汗症」と、手のひらや脇など局所的に大量の汗をかく「局所性多汗症」があります。さらに全身性多汗症・局所性多汗症は、何らかの疾患が原因の「続発性多汗症」と原因が明らかでない「原発性多汗症」に分類されます。
続発性多汗症であれば根本原因である疾患を治療することで改善します。一方、原発性多汗症は原因がわからないことから、症状を抑えるためには汗の分泌を抑制する対症療法が必要です。
多汗症がみられる部位
全身性多汗症は、体中さまざまな部位から大量の汗をかく状態です。一方、局所性多汗症とは、身体の特定の部位からのみ汗を大量にかく症状です。特に局所性多汗症の症状がみられやすいのは、汗を分泌するエクリン汗腺が多く分布している手のひらや脇の下、頭部や顔、足の裏などの部位です。
それぞれの部位により多汗症の名称があり、たとえば手のひらであれば「手掌多汗症」、脇の下であれば「腋窩多汗症」という病名で呼ばれます。
脇の多汗症である腋窩多汗症は、ワキガを併発することもあります。そのため、「脇から汗がたれてくる」「汗染みができる」といった汗だけではなく、「ニオイが気になる」といった悩みを抱えてしまうことが少なくありません。
脇の多汗症とは
脇の多汗症は、汗の原因が糖尿病や更年期障害といった持病に関わらない場合、別名「原発性腋窩(えきか)多汗症」といいます。気温が高い、激しい運動をした、緊張しているといった汗をかきやすい状況ではない時に、脇から大量の汗がでる病気です。脇の多汗症の人は6か月以上にわたって脇の汗が多いほか、次の特徴がみられます。
・最初に症状がでたのが 25 歳より前
・左右対称に汗をかく
・眠っているときは脇汗をかかない
・1 週間に 1 回以上、脇汗の量が多いと感じた記憶がある
・家族に多汗症の人がいる
・脇汗が原因で生活に困っている
また、脇から臭いが発するワキガと混同されがちですが、多汗症が原因でワキガを発症することはありません。脇の臭いが気になる場合、耳垢が湿っていたり、シャツに黄ばみが付いたりする人はワキガの可能性が高いです。
関連記事:脇の多汗症とワキガは違う?同じ?脇の下の汗・ニオイ対策とセルフチェックリストも解説
脇の多汗症の症状
脇の多汗症は、多くの人が思春期あたりに症状を自覚するようです。洋服の脇下部分に汗染みができて人目が気になったり、汗が脇をつたう感覚が不快だったり、汗が冷えて寒気を感じたりします。
また大量の脇汗をかくことで、あせもができる場合や、汗が溜まって水疱ができる、汗が原因で皮膚が擦れやすくなり擦り傷ができるといった合併症を伴う危険性があります。
脇の多汗症の発症率は全国で3.7%と、日本には約260万人の患者がいると推測されますが、「ただの汗」と病院に行くのを避けてしまうのか受診している人は患者の内5%未満しかいません。脇の多汗症に悩む人は、脇下のパッドや制汗スプレーなどを買い年間1万円ほどかかっているという調査もあります。
脇の多汗症の原因
脇の多汗症の原因は分かっていません。しかし、多汗症ではない方と比べても汗腺の数や大きさに違いがないため、汗腺の働きが異常になっていると考えられています。脇は皮膚の近くに太い血管が通っており、体温調節がしやすく脳が汗の分泌を促しやすいです。また、全身に比べて汗を出す体温が低いことが分かっていて、腕を閉じた状態だと汗が蒸発しづらく汗染みが目立ってしまう場合が多いようです。
脇の多汗症は何科に行けばいい?
脇の多汗症に悩み、治療を検討しているものの「何科に行けばいいかわからない」という方は多いのではないでしょうか。多汗症はどの部位のものであっても、皮膚科を受診するのが一般的です。
ただし、続発性多汗症のように、何らかの疾患が原因で汗が大量に出ることもあります。そうした場合は原因となる病気の特定や治療のため、内科等の受診をすることもあります。
原発性多汗症の場合は原因が明らかではありません。そのため、汗をかくという症状を抑える必要があります。汗は皮膚に分布するエクリン汗腺から分泌しますので、前述の通り治療の際には皮膚科の受診をするのが妥当といえます。脇の多汗症のお薬の処方も受けられますので、腋窩多汗症でお悩みならばお近くの皮膚科に足を運びましょう。
脇の多汗症の治療法
治療については、薬の服用が一般的です。錠剤タイプの飲む薬と脇に直接付ける塗り薬のタイプがあります。脇に注射を打つボツリヌス毒素局所注射や、機械を使った治療もあります。重症の人は手術を希望することもできます。
脇の多汗症の治療薬の効果・副作用
脇の多汗症である腋窩多汗症のお薬はさまざまな種類があります。以下で、それぞれのお薬の概要や効果・副作用について解説します。
ラピフォートワイプ2.5%
2023年6月から長期処方できるようになった原発性腋窩多汗症のお薬です。1回使い切りのワイプタイプ(シート型)のお薬で、簡単に使用できるのが特徴です。携帯性が高いため、旅行先にも持ち運べます。
効果
グリコピロニウムトシル酸塩水和物という有効成分により、発汗を促すアセチルコリンが、エクリン汗腺のムスカリンM3受容体へ結合するのを阻害します。エクリン汗腺が発汗の司令を受け取りにくくなるため、無駄な発汗を抑えることができます。
1日1回、両脇にひと拭きするだけで汗を抑える効果を得られます。
副作用
ラピフォートワイプには以下のような副作用が報告されています。
- ・乾く、眩しい、ぼやける、かすむなどの目の症状
- ・尿が出にくくなる、または頻尿になる
- ・薬剤塗布部分に炎症や湿疹が起きる
- ・口が乾く
また、ラピフォートワイプ使用時には以下のことにご注意ください。
- ・開封時、薬液が飛散して目やその他部位につかないようにする
- ・薬剤を塗布する際にはひと拭きのみで、何度もこすり塗りしない
- ・傷・湿疹・炎症がある場合は使用しない
- ・脇以外の部位に使用してはいけない
エクロックゲル5%
2020年9月に日本初の腋窩多汗症の治療薬として承認されたボトルタイプのお薬です。「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(日本皮膚学会)では、原発性腋窩多汗症において、エクロックゲル5%を最初に投与すべき治療薬の一つとしています。現在はラピフォートワイプも保険適用となり、選択肢の幅が広がっています。
効果
有効成分であるソフピロニウム臭化物がエクリン汗腺の受容体と結合し、発汗を促すアセチルコリンとの結合を阻害することで汗の量を軽減します。必要以上に汗をかくことが減ることで、衣服の脇じみ予防や脇のニオイを軽減するなどの効果があります。
副作用
エクロックゲル5%は比較的副作用が少ないとされています。しかし、以下のような副作用が出ることもあります。
- ・かゆみ、赤くなる、湿疹、炎症などの皮膚症状
- ・口が乾く
また、エクロックゲル5%を使用する際には以下の点に注意しましょう。
- ・薬液が手についたらすぐに洗い流す
- ・傷や湿疹、皮膚炎などがある場合は使用せずに医師に相談する
- ・薬液が目に入らないようにし、万が一入った場合はすぐに洗い流す
- ・使用できる年齢は12歳以上である
- ・妊娠またはその可能性がある、授乳中の女性は使用を控える
抗コリン外用薬
抗コリン外用薬とは、アセチルコリンの働きを阻害する比較的新しい腋窩多汗症用のお薬です。抗コリン薬には以前から飲み薬が存在しています。ただ、飲み薬だと全身の発汗が抑制されてしまうため、夏場などに熱中症リスクがあります。
抗コリン外用薬は塗り薬なので、多汗症の症状が出ている部位のみに塗布できます。他の部位は問題なくいつも通りに汗をかけるので、熱中症リスクがありません。抗コリン外用薬には、前述のラピフォートワイプ2.5%やエクロックゲル5%、アポハイドローションなどがあります。
効果
有効成分により、発汗を促すアセチルコリンという物質がエクリン汗腺と結びつくのを阻害することで発汗を抑制します。
副作用
抗コリンの飲み薬と比べて、塗り薬の抗コリン外用薬は全身への影響が少なく、副作用も少ない傾向にあります。ただし、以下のような副作用が出ることもあります。
- ・皮膚にかぶれや炎症、湿疹が出る
- ・目が乾く、ぼやける、眩しく感じるなどの症状
- ・口が乾きやすくなる
また、使用の際には以下のようなことに注意しましょう。
- ・塗り忘れた場合は1回分飛ばす
- ・薬液が目に入らないようにする
- ・目に入った際には速やかに清潔な水で洗い流す
- ・薬液が他の人に触れないようにする
塩化アルミニウム外用薬
塩化アルミニウム外用薬は保険診療適用外で、自費診療の塗り薬となります。脇を始め、手足や頭、顔など症状が出ている部位を問わず使用できます。使用は就寝前の1日1回が基本で、治療部位に塗布します。そして翌朝に手を洗って塗り薬を取り除きます。皮膚炎などの副作用が生じないのであれば、日中に塗布することも可能です。
効果
塩化アルミニウムには収れん作用(組織を縮める作用)があります。この作用を利用し、お薬を塗布し続けてエクリン汗腺を塞ぐことで、汗の量を減らす効果が得られます。殺菌効果もあるため、多汗症やワキガによる気になる脇の下のニオイを減らす効果もあります。
副作用
塩化アルミニウム外用薬は比較的副作用が少ないとされます。ただし以下のような副作用が出る場合もあります。
- ・かぶれやヒリヒリ感などの皮膚症状
- ・便秘によってお腹が張る
- ・口の乾き
また、使用時には以下のことに注意しましょう。
- ・傷がある部位への使用を控える
- ・ヒリヒリ感やかぶれ等の皮膚症状が出たら使用を中止する
- ・効果が出るまでに時間がかかることもあるため、継続使用する
抗コリン薬
抗コリン薬は、多汗症の症状を抑える飲み薬です。代表的な抗コリン薬として、プロバンサインがあります。プロバンサインは抗コリンの飲み薬の中でも比較的副作用が少ないとされます。そのため、抗コリンの飲み薬では保険適用となっています。
1回1錠を3~4回に分けて服用し続け、症状が落ち着いたら服用を終えます。数ヶ月使っても効果を実感できない場合は、使用中止を検討します。
抗コリン薬のプロバンサインは、多汗症治療以外にも胃液の過剰分泌を抑える、消化器の痙攣を抑える、夜尿症などの治療にも使われるお薬です。
効果
抗コリン薬のプロバンサインにはプロパンテリン臭化物という有効成分が含まれています。発汗を促すアセチルコリンの働きを妨げることで、多汗症の症状を抑える効果があります。
副作用
抗コリン薬のプロバンサインは副作用が少ないとされます。しかし以下のような副作用が出ることもあります。
- ・口の乾き
- ・目のかすみ、眩しく感じる
- ・頭痛や眠気
また、使用時には以下のことに注意しましょう。
- ・特定の持病(閉塞隅角緑内障、前立腺肥大、重篤な心疾患等)がある場合は禁忌である
- ・特定のお薬(抗うつ剤やパーキンソン病治療薬等)を使用している場合は、効果が増強されすぎる恐れがあるため注意が必要
- ・15歳未満の小児や妊婦への使用は安全性が確立されていない
A型ボツリヌス菌毒素製剤
A型ボツリヌス菌毒素製剤とは、脇の多汗症である腋窩多汗症のボツリヌス療法で用いられるお薬です。原発性腋窩多汗症と診断される場合、A型ボツリヌス菌毒素製剤を用いたボツリヌス療法を保険適用で受けられます。
効果
神経を麻痺させる作用のあるボツリヌス菌が作る毒素により、交感神経を麻痺させます。交感神経から発汗を促す信号が阻止されることで、脇からの過剰な発汗を抑制します。個人差はありますが、注射をしてから2~3日後くらいから効果が出始め、4~9ヶ月ほど持続します。それ以降は徐々に効果が薄れ、多汗症が再発します。
副作用
A型ボツリヌス菌毒素製剤は副作用が少ないとされますが、以下のような副作用が出ることもあります。
- ・皮膚の発疹やかゆみ
- ・吐き気や腹痛などの消化器症状
- ・息苦しさを感じたり声がかすれたりする
- ・痙攣が起きるなどのショック症状
また、A型ボツリヌス菌毒素製剤には以下のような注意点があります。
- ・当日~数日は激しい運動やマッサージを控える
- ・当日~数日は長湯や飲酒を控える
- ・薬剤注入部を圧迫しない
脇の多汗症の診断基準
病院では、問診や視診によって脇の多汗症である腋窩多汗症の診断を行います。
まず、問診によって基礎疾患の有無を確認します。糖尿病などの生活習慣病、循環器系の疾患基礎疾患、悪性の腫瘍、内分泌・代謝疾患、または使用している薬物の影響などがある場合は続発性多汗症を疑います。基礎疾患や薬物の影響がなく、多汗症の原因が明らかでない場合は原発性多汗症を疑います。
そして、どの部位に大量の発汗があるかを問診・視診で確認します。全身に汗を大量にかくのであれば全身性多汗症、局所的であれば局所性多汗症と判断します。局所性多汗症と判断できる場合は、身体のどの部位に大量の発汗があるかを問診・視診にて確認します。脇の下に汗をかくと確認されれば、腋窩多汗症を疑います。
最終的に以下の6項目のうち2項目に当てはまり、明らかな原因がない場合は原発性腋窩多汗症と診断されます。
- 初めて症状が出たのが25歳以下である
- 左右どちらの部位にも大量の発汗がある
- 睡眠中は多汗がおさまっている
- 1週間に1回以上の多汗症状がある
- 家族や親戚に多汗症の症状を持つ人がいる
- 脇の汗のせいで日常生活に支障をきたしている
脇の多汗症の対策
一番の対策は病院を受診して薬の処方を受けることですが、日常生活で対策できることとしては次のものがあげられます。
・脇のケアの習慣をつける
こまめに汗を拭くことで皮膚の擦り傷などの合併症を防ぐことができます。また、脇を濡らしたタオルで冷やすと体温が下がるので汗をかきづらくなります。
・精神安定に努める
緊張すると脳が汗を分泌しようとするので、精神的に不安を感じる場面は避けることが大切です。ストレスは溜め込まないようにし、睡眠もしっかり取りましょう。
・制汗剤などを利用する
ドラッグストアなどで売っている汗拭きシートや制汗スプレーも一時的に汗を抑えることができると言われています。一部の漢方薬でも汗が出づらくなる例があるようです。汗染みが気になる場合には脇下パッドの使用で服に汗が付くことを防げます。
まとめ
普段、通学や通勤時に脇の汗染みが気になっているという方、人よりも脇の汗が出やすいと感じている方は脇の多汗症の可能性があります。「汗の相談では病院に行きづらい」、「人に話すのが恥ずかしい」という思いもあるかもしれませんが、生活に不便を感じている方は受診することをおすすめします。
忙しくて通院する時間がない、周りの目が気になって病院に行けないという方には、おうち病院の「オンライン多汗症外来」がぴったりです。「オンライン多汗症外来」は、パソコンやスマホのビデオ通話機能を使い、早朝・夜間でも診察を受けることができます。近くの薬局に処方箋が届くシステムになっており、最短当日中に薬が受け取れます。
丁寧なサポートとアフターサービスあって安心して利用できるので、ぜひこの機会にお試しください。