「骨盤底筋を鍛えましょう」と言われても、どこの筋肉かわからない、正しくできている自信がない——尿もれの対処として最もよく勧められる方法でありながら、実践となると迷いやすいのが骨盤底筋トレーニングです。実は効果には明確な根拠があり、同時に「どのタイプの尿もれに効くか」もはっきりしています。本ページでは、根拠に基づいた効果の見通しと、正しいやり方、そしてセルフケアで届かない範囲の見極め方をご案内します。
この記事で分かること
- 骨盤底筋トレーニングは、腹圧性尿失禁(咳・くしゃみで漏れるタイプ)に対して最も根拠のある方法です。コクラン・レビュー(2018年、31試験・1,817人)で治癒率56%(対照群6%)と報告されています
- 診療ガイドラインでも、行動療法は薬物療法より前段に置かれています(過活動膀胱診療ガイドライン第3版、2022年9月)
- よくある間違いは、お腹・お尻・太ももに力を入れてしまうことです。これらに力が入ると骨盤底筋は締まりにくくなります
- 排尿を途中で止める練習を習慣化しないでください。筋肉の場所を確認する目的で一度試すのは構いませんが、繰り返すのは避けてください
- 「急に強い尿意が来て我慢できない」タイプには、トレーニングだけでは届かないことがあります。この場合は保険適用の内服薬という選択肢があります
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目次
骨盤底筋とは何か
骨盤底筋は、骨盤の底でハンモックのように臓器を支えている筋肉群です。ここが弱まると尿もれが起こりやすくなります。
具体的には、膀胱・子宮・直腸を下から支え、同時に尿道と肛門を閉じる働きを担っています。腹圧がかかった瞬間(咳・くしゃみ・重い物を持つとき)に反射的に締まることで、尿が漏れるのを防いでいます。この筋肉が弱まる主な要因は、妊娠・出産、加齢、閉経に伴うホルモンの変化、肥満、慢性的な便秘やせきです。
重要なのは、骨盤底筋が意識的に動かせる筋肉だという点です。意識して使えるからこそトレーニングが成立します。ただし体の外から見えず、日常生活で意識することがほとんどないため、最初は感覚をつかむこと自体に時間がかかります。
どのタイプの尿もれに効くのか
トレーニングを始める前に、ご自身の尿もれがどのタイプかを確認してください。タイプによって期待できる度合いが大きく異なります。
| タイプ | 漏れる場面 | 骨盤底筋トレーニングの位置づけ |
|---|---|---|
| 腹圧性尿失禁 | 咳・くしゃみ・笑ったとき、重い物を持ったとき、走ったとき | 第一選択です。最も根拠が明確です |
| 切迫性尿失禁(過活動膀胱) | 急に強い尿意が来て、トイレまで我慢できないとき | 行動療法の一つとして推奨されますが、トレーニングだけでは不十分なことがあります。薬物療法が選択肢になります |
| 混合型 | 両方の場面で漏れます | トレーニングを続けながら、切迫性の部分に薬物療法を検討します |
この見分けが実務的に重要なのは、期待の置き場所が変わるからです。腹圧性であれば、トレーニングは対処の中心になります。一方、切迫性が中心の場合、トレーニングを何か月続けても届かない部分が残ることがあります。その場合はトレーニングが無意味なのではなく、他の選択肢を足す必要があるということです。
効果の根拠と、期待できる大きさ
「効果がある」と言われても、どの程度なのかがわからないと続ける動機になりません。数値で確認しておきます。
コクラン・レビュー(2018年10月、女性の尿失禁に対する骨盤底筋トレーニング、31試験・14か国1,817人)の結果は以下の通りです。
| 指標 | トレーニング群 | 対照群 | 効果の大きさ |
|---|---|---|---|
| 腹圧性尿失禁の治癒 | 56% | 6% | リスク比 8.38(95%信頼区間 3.68〜19.07) |
| 腹圧性尿失禁の治癒または改善 | 74% | 11% | リスク比 6.33(95%信頼区間 3.88〜10.33) |
| 24時間あたりの尿漏れ回数 | — | — | 1回少ない |
腹圧性尿失禁の治癒に関するエビデンスの質は「高い」と評価され、レビュー全体としては「中等度」の質とされています。一方、切迫性尿失禁のみを対象とした研究は1件、混合型を対象とした研究も1件と限られており、これらのタイプではこの数値がそのまま当てはまるわけではありません。なお過活動膀胱診療ガイドライン第3版(日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会、2022年9月)でも、行動療法(生活指導・膀胱訓練・骨盤底筋訓練)は薬物療法より前段に置かれています。薬を使わない方法が最初に来るのが、この領域の治療の基本的な考え方です。
正しいやり方
効果が期待できる方法である一方、やり方が合っていないケースは少なくありません。段階を追って確認してください。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① 筋肉の場所をつかむ | 排尿を途中で止めるときに使う筋肉、おならを我慢するときに締める筋肉が骨盤底筋です。まずこの感覚をつかみます |
| ② 姿勢を整える | 最初は仰向けで、膝を立てた姿勢が最もやりやすい姿勢です。慣れたら座位、立位へ進みます |
| ③ ゆっくり締める | 5秒ほどかけて締め、同じくらいの時間をかけてゆるめます。息は止めず、自然に呼吸を続けます |
| ④ 速く締める | 1秒程度で素早く締めてゆるめる動きも組み合わせます。咳やくしゃみに備える動きに対応します |
| ⑤ 生活の中に組み込む | 歯磨き中、信号待ち、デスクワーク中など、決まった場面と結びつけると習慣化しやすくなります |
「ゆっくり」と「速く」の両方を行うのが基本です。ゆっくり締める動きは持続的に支える力を、速く締める動きは咳やくしゃみの瞬間に反応する力を養うためで、片方だけでは日常の場面をカバーしきれません。なお回数や頻度は指導する医療機関によって推奨が異なりますが、少ない回数でも毎日続けるほうが、多い回数を時々行うより有効だという点は共通しています。
よくある間違い
うまくいかない場合、原因の多くは次のいずれかです。
| よくある間違い | 何が問題か | 対処 |
|---|---|---|
| お腹に力が入っている | 腹圧が上がり、骨盤底筋はむしろ押し下げられます | お腹に手を当て、硬くならないことを確認しながら行います |
| お尻・太ももに力が入っている | 骨盤底筋以外の筋肉で代償しています | これらの筋肉が動いていないか、手で触れて確認します |
| 息を止めている | 腹圧が上がります | 数えながら行うと自然に呼吸が続きます |
| 排尿を止める練習を繰り返している | 排尿の仕組みに悪影響が及ぶ可能性があります | 場所の確認で一度試すのは構いませんが、習慣化しないでください |
| 数日で効果を判断している | 筋肉のトレーニングは短期間では変化が出ません | 数週間から数か月の単位で継続します |
特に注意していただきたいのが、排尿を途中で止める練習です。筋肉の場所を確認する方法として紹介されることがありますが、これを習慣的に行うと、排尿の際に膀胱と尿道が協調して働く仕組みに影響する可能性があります。確認は一度で十分です。
続けるコツと、効果を判断する時期
骨盤底筋トレーニングの最大の課題は、効果ではなく継続です。目に見える変化がすぐには出ないため、途中でやめてしまう方が多いのが実情です。
| 時期 | 目安 |
|---|---|
| 開始〜2週間 | 感覚をつかむ時期です。効果を判断する段階ではありません |
| 1〜3か月 | 変化が出始める方が多い時期です。記録をつけていると変化に気づきやすくなります |
| 3か月続けて変化がない | やり方が合っていない可能性、またはタイプが合っていない可能性があります。医師にご相談ください |
続けるコツは、時間を決めるのではなく場面と結びつけることです。「毎日10分」と決めると忘れますが、「歯磨きのときに10回」「信号待ちのときに5回」のように既存の習慣と結びつけると続きやすくなります。あわせて、尿もれの回数やパッドの使用枚数を週単位で記録しておくと、日々の実感ではわからない緩やかな変化にも気づけます。
セルフケアで届かない範囲
骨盤底筋トレーニングは有用な方法ですが、これだけで対応できない場合があります。線引きを知っておくことで、続けるべきか相談すべきかの判断ができます。
| 状況 | 対応の目安 |
|---|---|
| 3か月続けたが変化がない | やり方の確認、またはタイプの見極めのためにご相談ください |
| 急に強い尿意が来て我慢できないことが多い | 過活動膀胱の可能性があります。保険適用の内服薬という選択肢があります |
| 感覚がつかめず、正しくできている自信がない | 医師や理学療法士による指導が有効な場合があります |
| 下腹部に何かが下りてくる感じがある | 骨盤臓器脱の可能性があります。婦人科・泌尿器科で内診を含む評価が必要です |
| 血尿・排尿時の痛み・発熱がある | 対面での受診が必要です。尿検査が必要になります |
| 尿が出にくい・残尿感が強い | 対面での受診が必要です。尿の通り道の問題が疑われます |
こんな状態が続いていませんか【セルフチェック】
以下の項目で、当てはまるものを数えてみてください。
□ 咳・くしゃみ・笑ったときに漏れることがある
□ ★急に強い尿意が来て、トイレまで我慢するのが難しいことが週に1回以上ある
□ 骨盤底筋トレーニングを試したが、どこに力を入れるのかわからない
□ トレーニングをすると、お腹やお尻に力が入ってしまう
□ 3か月以上続けているが、変化を感じない
□ 尿もれパッドや尿とりライナーを日常的に使っている
□ 尿もれが心配で、運動や外出を控えている
□ ★下腹部に何かが下りてくるような感じがある
3つ以上当てはまる場合は、一度医師にご相談ください。やり方の確認だけでも意味があります。
2つ目の項目★に当てはまる場合は、切迫性の要素があると考えられます。トレーニングを続けながら、薬物療法を含めた相談をご検討ください。
8つ目の項目★に当てはまる場合は、骨盤臓器脱の可能性があります。この場合は内診を含む評価が必要なため、婦人科・泌尿器科での対面受診をご検討ください。
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過活動膀胱かも?おうち病院で相談できること
はじめにお伝えしておくべきことがあります。骨盤底筋トレーニングそのものは、費用をかけずにご自身で取り組める方法です。このページの目的は受診をお勧めすることではなく、正しいやり方と、続けるかどうかの判断材料をお伝えすることにあります。
そのうえで、「3か月続けたが変化がない」「切迫感が強い」という段階では、相談することで選択肢が増えます。おうち病院では、オンライン内科で保険適用の診察を受けられます(2026年8月時点で過活動膀胱に特化した外来は開設していません)。
✅ タイプの見極めから相談できます
腹圧性が中心なのか、切迫性の要素があるのかによって、次の一手が変わります。この見極めは問診で進められる部分が大きく、オンラインでの相談に適しています。漏れる場面(咳・くしゃみのときか、急な尿意のときか)、トレーニングを続けた期間と感じている変化を共有いただくと、検討が進みます。
おうち病院の特徴
✅ 自宅から受診できる
診察室に行かずにスマートフォン・PCから問診・診察が完了します。受付や待合室で排尿の悩みを話す必要がありません。更年期の症状と尿のトラブルをまとめて相談したいときにも、話しやすい環境です。
✅時間通りに診察が始まる
予約した時間に診察が開始するため、仕事の合間にも受診を計画的に組み込むことができます。
・平日・土日祝日も朝8時〜夜22時まで診察可能
✅ 女性医師が丁寧に診察
診察時間は15分を確保しています。尿意切迫感の有無、月経の状況、のぼせや発汗などの併発症状、冷えやむくみの有無を共有いただくと、内服薬と漢方薬のどちらが適しているかの検討が進みます。
✅受診場所と薬の受け取り場所を分けられる
受診はスマートフォン・PCから自宅や外出先で行い、処方薬は自分が指定した薬局で受け取れます。
・処方せんは全国8,200店舗の薬局から選択し自動送信され、受け取り可能
・自宅配送「おくすりおうち便」を利用すれば、薬局に行く手間なし
受診費用の目安(保険適用・3割負担の場合)
| 費用項目 | 金額 |
|---|---|
| 診察料(保険適用・初診) | 1,000〜1,200円 |
| システム利用手数料 | 1,100円 |
| 合計目安 | 約1,900〜2,400円 |
※薬代は別途。薬局での自己負担額は薬剤・保険の種類により異なります。
おうち病院 オンライン診療への受診の流れ
- おうち病院のトップページから内科を選択し受診予約
- 事前問診票に回答(尿意切迫感の有無・排尿回数・月経の状況・併発症状・服用中の薬)
- ビデオ通話で医師と診察(約15分・クイックな対応の場合には5分程度で完了)
- 処方薬を薬局に受け取りに行く、または自宅に配送してもらう
- 経過を見ながら調整 — 漢方薬は1〜3か月の継続で判断するため、定期的に経過を確認します
オンライン診療で対応できないケースについて: 下腹部に何かが下りてくる感じがある場合(骨盤臓器脱が疑われる場合)、血尿・排尿時痛・発熱がある場合、尿が出にくい場合は、内診や尿検査が必要なため対面での受診をご案内します。
あわせてお読みください
ご自身の状況に近いものからお読みください。
- 産後の尿もれについて → 産後の尿もれはいつ治る?
- 急な尿意が中心の場合 → 過活動膀胱の薬を比較
- 更年期の変化が関わる場合 → 更年期の頻尿・尿もれ
- どの診療科を受診すべきか → 頻尿・尿もれは何科に行けばいい?
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よくある質問(FAQ)
Q. 骨盤底筋トレーニングはどのくらいで効果が出ますか?
A.数日で判断できるものではありません。感覚をつかむのに2週間ほど、変化が出始めるのは1〜3か月が目安です。3か月続けて変化がない場合は、やり方が合っていない可能性やタイプが合っていない可能性があるため、一度ご相談ください。
Q. 骨盤底筋がどこにあるかわかりません。
A.排尿を途中で止めるときに使う筋肉、おならを我慢するときに締める筋肉が骨盤底筋です。場所の確認として排尿を一度止めてみるのは構いませんが、これを習慣的に繰り返すのは避けてください。排尿の仕組みに悪影響が及ぶ可能性があります。
Q. 正しくできているか確認する方法はありますか?
A.お腹に手を当てて、締めたときにお腹が硬くならないことを確認してください。お尻や太ももに力が入っていないかも、手で触れて確認できます。感覚がつかめない場合は、医師や理学療法士による指導が有効なことがあります。
Q. どのくらいの回数を、どのくらいの頻度で行えばよいですか?
A.推奨される回数や頻度は指導する医療機関によって異なります。共通しているのは、少ない回数でも毎日続けるほうが、多い回数を時々行うより有効だという考え方です。歯磨き中や信号待ちなど、既存の習慣と結びつけると続けやすくなります。
Q. 骨盤底筋トレーニングはどんな尿もれに効きますか?
A.最も根拠が明確なのは、咳・くしゃみで漏れる腹圧性尿失禁です。コクラン・レビュー(2018年、31試験・1,817人)では治癒率が対照群6%に対し56%と報告されています。一方、急な尿意で漏れる切迫性尿失禁については研究が限られており、トレーニングだけでは不十分なことがあります。
Q. 急に尿意が来て我慢できないタイプにも効きますか?
A.行動療法の一つとして推奨されていますが、トレーニングだけでは届かない部分が残ることがあります。この場合は過活動膀胱の可能性があり、保険適用の内服薬という選択肢が加わります。トレーニングをやめる必要はなく、選択肢を足すという考え方です。
Q. トレーニングをしてはいけない場合はありますか?
A.下腹部に何かが下りてくる感じがある場合は骨盤臓器脱の可能性があり、内診を含む評価が必要です。また、産後は分娩の経過によって開始時期の判断が変わります。血尿・排尿時の痛み・発熱がある場合は、トレーニングより先に受診してください。